労働・雇用問題を考察する際には、労働・雇用の「構造・制度」「需要」「供給」の三つの要因が重要です。1990年代から2000年代初期にかけて話題となった若年非正規雇用問題は、第三次サービス産業化やグローバル化を伴う労働市場の流動化による、非正規雇用の需要増加が背景だと言われています[1]。その結果、賃金やフリンジ・ベネフィットの点で正規雇用よりも人件コストの低い非正規雇用が多量に活用されるようになり、様々な格差・不平等の問題が生じています。つまり「構造・制度」の変化が「需要」に影響を与え、労働・雇用問題が生じたという因果関係です。

しかし、近年の日本では、慢性的な人口減少と少子高齢化の影響で労働市場における若年労働人口が減少し、非正規労働市場の労働プール、つまり「供給」の状況にも変化が生じている可能性があります。2000年代初期における労働力不足は主に若年正規雇用の不足でした。また、その問題は、過剰な中高年労働人口の雇用確保によって若者の新規正規雇用が制限され、多くの若者が非正規雇用へ進んだことや、学校の在り方や若者の意識の変化によって卒業後の進路が多様化し、非正規雇用就職が多くなったことが原因として考えられていました[2][3]。しかし、2010年代に入っても人口減少と少子高齢化は進行中で、正規・非正規を含む全体的な労働人口構成が変化してきていると考えられます。すなわち、非正規雇用の労働力プールにも変化が生じてきており、これまで典型的な非正規雇用者として考えられてきた若年層だけではなく、学生・主婦・高齢者・留学生なども新たな非正規労働力として「供給」されるようになったのです。

現在でも、非正規雇用を基幹化し多量に活用する第三次サービス産業などは継続的に発展し続けています。そして、都内の多くの飲食店では留学生がアルバイトをしている、また郊外の小売店では主婦や学生が業務の中核を担っている状況が観察できます。今後、人口減少・少子高齢化という「構造・制度」の変化が非正規雇用の「供給」に影響を与え、新しい非正規雇用の労働・雇用問題が生じる可能性があるのではないでしょうか。

 

[参考文献] [1] 太郎丸博,2009,『若年非正規雇用の社会学』大阪大学出版会.

[2] 玄田有史,2001,『仕事のなかの曖昧な不安』中央公論新社.

[3] 小杉礼子,2003,『フリーターという生き方』勁草書房.

作成者
某有名ミッション大学大学院 四谷太郎
903CityFarm推進協議会 事務局

https://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2016/10/l.php_.jpghttps://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2016/10/l.php_-150x150.jpghatarakuba最新記事若者Vioce労働・雇用問題を考察する際には、労働・雇用の「構造・制度」「需要」「供給」の三つの要因が重要です。1990年代から2000年代初期にかけて話題となった若年非正規雇用問題は、第三次サービス産業化やグローバル化を伴う労働市場の流動化による、非正規雇用の需要増加が背景だと言われています。その結果、賃金やフリンジ・ベネフィットの点で正規雇用よりも人件コストの低い非正規雇用が多量に活用されるようになり、様々な格差・不平等の問題が生じています。つまり「構造・制度」の変化が「需要」に影響を与え、労働・雇用問題が生じたという因果関係です。 しかし、近年の日本では、慢性的な人口減少と少子高齢化の影響で労働市場における若年労働人口が減少し、非正規労働市場の労働プール、つまり「供給」の状況にも変化が生じている可能性があります。2000年代初期における労働力不足は主に若年正規雇用の不足でした。また、その問題は、過剰な中高年労働人口の雇用確保によって若者の新規正規雇用が制限され、多くの若者が非正規雇用へ進んだことや、学校の在り方や若者の意識の変化によって卒業後の進路が多様化し、非正規雇用就職が多くなったことが原因として考えられていました。しかし、2010年代に入っても人口減少と少子高齢化は進行中で、正規・非正規を含む全体的な労働人口構成が変化してきていると考えられます。すなわち、非正規雇用の労働力プールにも変化が生じてきており、これまで典型的な非正規雇用者として考えられてきた若年層だけではなく、学生・主婦・高齢者・留学生なども新たな非正規労働力として「供給」されるようになったのです。 現在でも、非正規雇用を基幹化し多量に活用する第三次サービス産業などは継続的に発展し続けています。そして、都内の多くの飲食店では留学生がアルバイトをしている、また郊外の小売店では主婦や学生が業務の中核を担っている状況が観察できます。今後、人口減少・少子高齢化という「構造・制度」の変化が非正規雇用の「供給」に影響を与え、新しい非正規雇用の労働・雇用問題が生じる可能性があるのではないでしょうか。    太郎丸博,2009,『若年非正規雇用の社会学』大阪大学出版会.  玄田有史,2001,『仕事のなかの曖昧な不安』中央公論新社.  小杉礼子,2003,『フリーターという生き方』勁草書房. 作成者 某有名ミッション大学大学院 四谷太郎 903CityFarm推進協議会 事務局下町の農と食で地域をつなぐ