5月10日「非正規社員の定着戦略化セミナー」と題したオンラインセミナーの第6回を配信しました。第6回のテーマは「非正規社員の賃金体系の整備」です。講師は、有限会社人事労務のチーフ人事コンサルタントである西田 周平がお送りさせていただきました。

第1回から前回までの講義で、非正規社員の「無期転換」ルールや、「同一労働同一賃金」の議論について触れてきました。今後、改正労働契約法の適用により、非正規社員の無期雇用化、多様な働き方を許容していくことは必要となってきます。同一労働同一賃金の考え方からすると、今までのパート・アルバイトについても、正社員と同等の賃金を払わなくてはいけなくなります。今までは「賃金が低いから有期契約だから雇っていたのに」と思う経営者の方もいらっしゃるでしょう。「じゃあ非正規社員は雇わないで正社員のみの体制づくりをしよう」といっても、そう簡単にはいきません。

講義中でもお話しさせていただきましたが、少子高齢化が進むなか、現代社会の生産年齢人口は2060年には現在の4割以上減少する見込みです。育児や特に介護の事情から正社員として働ける労働市場も相応以上に減少し、既存の正社員重視の制度では、人材の確保は難しくなるでしょう。採用難を抱える企業もそうですが、既存の正社員ではなかなかイノベーションが推し進められない特に中小企業にとっては、これからの時代を生き抜くためには、非正規社員を積極的に自社の戦力として取り込んで行くことが必要になります。

今回の講義では、非正規社員を戦力として取り込んだ企業の在るべき賃金体系について解説させていただきました。

今まで日本では、年功序列賃金制度の崩壊以降多くの企業で職能給制度が取り入れられてきました。つまり、「就社」のモットーの下、新入社員は先輩正社員の補助的な業務を行いOJT、ジョブローテーションを繰り返していく中で、その人の職務遂行能力が向上、それよって格付けられた職能等級によって給与額が決定するというものです。

しかし、これはある程度規模の大きな企業や大企業といった組織体での運用を予定しており、非正規社員の戦力化にはなじまないといえます。なぜなら、この職務遂行能力が、職務の経験を通じて決定されるもので、いわゆるゼネラル社員として登用された正社員がOJTやジョブローテーションを通じて順次評価(職能等級)が上がることを予定しているからです。この職能給の制度のなかでは、パート・アルバイトはあくまで正社員の補助的業務を行うにとどまります。かかる賃金体系をもって、正社員と同等あるいはそれ以上のはたらきをする非正規社員を戦力として取り込む企業である、ということは難しいといえます。次回の講義にもかかりますが、戦力として取り込む非正規社員の正しい労働価値の評価とそれに基づく賃金体系の整備が必要です。

一方で、職能給の年功的運用を見直そうと、職務給や役割給の制度を導入をする企業も増えてきました。これは、その人が行う仕事や担う役割の企業内での相対的価値によって給与額が決定するものです。

担った職務や役割の内容に応じて賃金決定される仕組みは、仕事の価値について客観的な評価をするものであり、「同一労働・同一賃金」の議論に対応した制度といえます。しかし、そもそもいろいろな事情を抱えた人たちが多様な働き方をするダイバーシティ時代の賃金体系において重要なことは、担った職務や役割をどう設定するかが問題といえます。

非正規社員の戦力化の観点から、ダイバーシティ時代の賃金体系を考える際には、多様な事情を抱えた労働者が、多様な価値をもって企業で働くのだという認識が必要です。

「限定的な働き方をする人」の活用について前回までの講義では、地域限定正社員や、短時間正社員を紹介させていただきました。この点「限定的な働き方」とは、「限定的な労働力」という意味ではありません。いろいろな背景があるからこそいろいろな価値をもつ仕事ができます。

例えば、地域限定正社員となる人の中には、地域のボランティアに参加し独自のつながりを持っています。育児や介護のために短時間正社員となる人の中には、PTAのつながりがあったりと、その独自のつながりから企業に新たな価値を生み出すこともあるでしょう。各々が持つ強みを企業における役割として定義し、企業の活動に対する貢献を評価する。それが非正規社員を取り込んだ社員の定着化・戦力化につながるのです。

この点、中小企業では、特に求められるのではないでしょうか。新たなアイディアが起こらなければ企業として生産性が上がらず、時代に取り残され淘汰されるでしょう。

現在日本は、従来の賃金制度と働き方改革に対応した賃金制度の過渡期にあります。

これからのダイバーシティ時代の賃金制度としては、多様な人財を評価した役割給(役割等級制度)、職務給と役割手当等の併用をしていくこと等が考えられます。この点、多様な人たちが多様な働き方をする時代に対応した賃金体系としては、役割に応じた賃金決定について働き方の区分、役割の区分を明確にすることが求められるでしょう。

次回の講義の内容は、「非正規社員の定着のための評価制度の導入」です。今回解説させていただいたのは賃金体系の構築ですが、その運用は適正かつ適切な評価制度ありきで成り立ちます。働き方改革が求められるに企業は何を社員に期待し、評価すべきか、またどう評価すべきか。この点は次回、有限会社人事労務の畑中義雄(社会保険労務士チーフ人事コンサルタント)がダイバーシティ時代の評価制度について解説させていただきます。こうご期待ください。

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https://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/18406320_1331935790217032_318311009_o.jpghttps://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/18406320_1331935790217032_318311009_o-150x150.jpghatarakuba最新記事進化する組織5月10日「非正規社員の定着戦略化セミナー」と題したオンラインセミナーの第6回を配信しました。第6回のテーマは「非正規社員の賃金体系の整備」です。講師は、有限会社人事労務のチーフ人事コンサルタントである西田 周平がお送りさせていただきました。 第1回から前回までの講義で、非正規社員の「無期転換」ルールや、「同一労働同一賃金」の議論について触れてきました。今後、改正労働契約法の適用により、非正規社員の無期雇用化、多様な働き方を許容していくことは必要となってきます。同一労働同一賃金の考え方からすると、今までのパート・アルバイトについても、正社員と同等の賃金を払わなくてはいけなくなります。今までは「賃金が低いから有期契約だから雇っていたのに」と思う経営者の方もいらっしゃるでしょう。「じゃあ非正規社員は雇わないで正社員のみの体制づくりをしよう」といっても、そう簡単にはいきません。 講義中でもお話しさせていただきましたが、少子高齢化が進むなか、現代社会の生産年齢人口は2060年には現在の4割以上減少する見込みです。育児や特に介護の事情から正社員として働ける労働市場も相応以上に減少し、既存の正社員重視の制度では、人材の確保は難しくなるでしょう。採用難を抱える企業もそうですが、既存の正社員ではなかなかイノベーションが推し進められない特に中小企業にとっては、これからの時代を生き抜くためには、非正規社員を積極的に自社の戦力として取り込んで行くことが必要になります。 今回の講義では、非正規社員を戦力として取り込んだ企業の在るべき賃金体系について解説させていただきました。 今まで日本では、年功序列賃金制度の崩壊以降多くの企業で職能給制度が取り入れられてきました。つまり、「就社」のモットーの下、新入社員は先輩正社員の補助的な業務を行いOJT、ジョブローテーションを繰り返していく中で、その人の職務遂行能力が向上、それよって格付けられた職能等級によって給与額が決定するというものです。 しかし、これはある程度規模の大きな企業や大企業といった組織体での運用を予定しており、非正規社員の戦力化にはなじまないといえます。なぜなら、この職務遂行能力が、職務の経験を通じて決定されるもので、いわゆるゼネラル社員として登用された正社員がOJTやジョブローテーションを通じて順次評価(職能等級)が上がることを予定しているからです。この職能給の制度のなかでは、パート・アルバイトはあくまで正社員の補助的業務を行うにとどまります。かかる賃金体系をもって、正社員と同等あるいはそれ以上のはたらきをする非正規社員を戦力として取り込む企業である、ということは難しいといえます。次回の講義にもかかりますが、戦力として取り込む非正規社員の正しい労働価値の評価とそれに基づく賃金体系の整備が必要です。 一方で、職能給の年功的運用を見直そうと、職務給や役割給の制度を導入をする企業も増えてきました。これは、その人が行う仕事や担う役割の企業内での相対的価値によって給与額が決定するものです。 担った職務や役割の内容に応じて賃金決定される仕組みは、仕事の価値について客観的な評価をするものであり、「同一労働・同一賃金」の議論に対応した制度といえます。しかし、そもそもいろいろな事情を抱えた人たちが多様な働き方をするダイバーシティ時代の賃金体系において重要なことは、担った職務や役割をどう設定するかが問題といえます。 非正規社員の戦力化の観点から、ダイバーシティ時代の賃金体系を考える際には、多様な事情を抱えた労働者が、多様な価値をもって企業で働くのだという認識が必要です。 「限定的な働き方をする人」の活用について前回までの講義では、地域限定正社員や、短時間正社員を紹介させていただきました。この点「限定的な働き方」とは、「限定的な労働力」という意味ではありません。いろいろな背景があるからこそいろいろな価値をもつ仕事ができます。 例えば、地域限定正社員となる人の中には、地域のボランティアに参加し独自のつながりを持っています。育児や介護のために短時間正社員となる人の中には、PTAのつながりがあったりと、その独自のつながりから企業に新たな価値を生み出すこともあるでしょう。各々が持つ強みを企業における役割として定義し、企業の活動に対する貢献を評価する。それが非正規社員を取り込んだ社員の定着化・戦力化につながるのです。 この点、中小企業では、特に求められるのではないでしょうか。新たなアイディアが起こらなければ企業として生産性が上がらず、時代に取り残され淘汰されるでしょう。 現在日本は、従来の賃金制度と働き方改革に対応した賃金制度の過渡期にあります。 これからのダイバーシティ時代の賃金制度としては、多様な人財を評価した役割給(役割等級制度)、職務給と役割手当等の併用をしていくこと等が考えられます。この点、多様な人たちが多様な働き方をする時代に対応した賃金体系としては、役割に応じた賃金決定について働き方の区分、役割の区分を明確にすることが求められるでしょう。 次回の講義の内容は、「非正規社員の定着のための評価制度の導入」です。今回解説させていただいたのは賃金体系の構築ですが、その運用は適正かつ適切な評価制度ありきで成り立ちます。働き方改革が求められるに企業は何を社員に期待し、評価すべきか、またどう評価すべきか。この点は次回、有限会社人事労務の畑中義雄(社会保険労務士チーフ人事コンサルタント)がダイバーシティ時代の評価制度について解説させていただきます。こうご期待ください。 詳しくはこちら▼下町の農と食で地域をつなぐ