東南アジア唯一の内陸国ラオス。

この国は、流れる時間の緩やかさと世界遺産都市ルアンパバーン、そして人柄の穏やかさが近年さまざまな人を魅了し、新たな観光スポットとして、先進国を中心に静かに注目されています。

4年前、私は、ラオスの北部で暮らす家族のもとでホームステイをしたときに食べた料理の美味しさに感動し、それがきっかけで農業に興味を持ちました。その村では、各家庭で畑を耕し、家族で食べる分の野菜とお米を収穫します。山岳地帯というラオスの土地柄をうまく利用して、畑の上には豚小屋をつくり、豚の糞が畑に落ちて肥料になります。豚のエサは、野菜の端切れや残飯。まさに「循環型農業」が自然とおこなわれています。この有機野菜を食べた感動。今でも忘れられません。

しかし、その村の食と暮らしに魅せられたことから、「ラオスの野菜は有機栽培で美味しい!」という先入観がありましたが、実態は大きく異なっています。

今回は、ラオスの環境保護、特に有機農業に関する研究をおこなっているPlant Protection CenterのSikaisone副所長に、ラオス農業の抱える課題についてお話を伺いました。

約20年前まで、ラオスの国土の多くを占める山岳地帯では、伝統的な農法である「焼き畑」をおこない、「自然の山」と「農業生産用の山」を村の自治で管理し、持続可能な範囲で有機栽培を繰り返していました。焼き畑というと、資源破壊というイメージがありますが、森の再生能力を超えない範囲であれば、生態系の維持や土づくりの観点からも非常に効率的な農法です。しかし、コーヒーやバナナのプランテーションによる森林破壊や山火事のリスクなど、さまざまな要因から、国内だけでなく国際的にも焼き畑が問題視され、そして、正式に2006年に焼き畑は法律で禁止され、今ではほとんど観られなくなりました。

このような背景もあり、徐々に中山間地域の農村で暮らす人々は山を降り、低地で農業を営むようになると、それと同じようなタイミングで、海外から「農薬」輸入されるようになり、生産性の向上の観点から政府も使用を推進し、低地を中心に全国的に農薬が広まり、農家のトレンドになっていきました。

しかし、農薬は輸入品なので、もちろん解説や使用要項、禁止事項、全てが外国の文字で書かれていますので、農家は読むことができません。「使えば使うだけ生産量が上がる」という魔法のような感覚でつかい続け、まさに感覚が農薬付けになってしまっています。

Sikaisone氏は、ラオスの農家の約8割は農薬を使っているといい、そのほとんどの人が、農薬の危険性を理解していないといいます。また、近年、ラオス国内の死因として「ガン」が爆発的に増えていますが、その原因の多くは、この農薬にあるといいます。食べる消費者の体への影響はもちろんですが、使用する農家の体への影響は著しく、警鐘を鳴らしています。

 

また、農薬を使っている農家への身体的な被害だけでなく、農薬による二次被害は、農薬をつかっていない農家にまで及んでいるといいます。これまでは、あまり観られなかったバッタやイナゴの大群が、農薬を使用していない農家の多い地域に押し寄せているのです。ラオス北部のシェンクワン県での被害は甚大で、農作物は壊滅的な状況です。

南部の主要都市パクセーから車で約1時間半のパクソンという地域は、ラオス有数の農業地帯ボロヴェン高原に位置し、コーヒーの一大生産地として飛躍を遂げています。高原ということで、山岳地帯のなかでも特に過酷な環境であったこの地域は、コーヒーの生産に力を入れるまではラオス国内でも貧しい地域で、他の地域で農薬を使用し始めたときも、なかなか農薬を手に入れられる農家がおらず、オーガニックでコーヒーをつくりはじめました。

しかし今では、「オーガニック」であるという点から、隣国のタイやベトナム、中国の「健康志向」な高所得者層から絶大な支持を得て、輸出の主要産品へと成長しました。また、ボロヴェン高原ではキャベツの生産にも力を入れており、同じく隣国に輸出されています。

 

農業は、消費者の行動や思考から需要を見極め生産し流通することが求められている。これは、ラオスだけでなく、日本も同じです。ラオスを見つめて観えてくること。それは、課題の中にヒントがあり、日本人も学ぶことが多いのではないでしょうか。

hatarakubaライフ×ワークスタイル最新記事東南アジア唯一の内陸国ラオス。 この国は、流れる時間の緩やかさと世界遺産都市ルアンパバーン、そして人柄の穏やかさが近年さまざまな人を魅了し、新たな観光スポットとして、先進国を中心に静かに注目されています。 4年前、私は、ラオスの北部で暮らす家族のもとでホームステイをしたときに食べた料理の美味しさに感動し、それがきっかけで農業に興味を持ちました。その村では、各家庭で畑を耕し、家族で食べる分の野菜とお米を収穫します。山岳地帯というラオスの土地柄をうまく利用して、畑の上には豚小屋をつくり、豚の糞が畑に落ちて肥料になります。豚のエサは、野菜の端切れや残飯。まさに「循環型農業」が自然とおこなわれています。この有機野菜を食べた感動。今でも忘れられません。 しかし、その村の食と暮らしに魅せられたことから、「ラオスの野菜は有機栽培で美味しい!」という先入観がありましたが、実態は大きく異なっています。 今回は、ラオスの環境保護、特に有機農業に関する研究をおこなっているPlant Protection CenterのSikaisone副所長に、ラオス農業の抱える課題についてお話を伺いました。 約20年前まで、ラオスの国土の多くを占める山岳地帯では、伝統的な農法である「焼き畑」をおこない、「自然の山」と「農業生産用の山」を村の自治で管理し、持続可能な範囲で有機栽培を繰り返していました。焼き畑というと、資源破壊というイメージがありますが、森の再生能力を超えない範囲であれば、生態系の維持や土づくりの観点からも非常に効率的な農法です。しかし、コーヒーやバナナのプランテーションによる森林破壊や山火事のリスクなど、さまざまな要因から、国内だけでなく国際的にも焼き畑が問題視され、そして、正式に2006年に焼き畑は法律で禁止され、今ではほとんど観られなくなりました。 このような背景もあり、徐々に中山間地域の農村で暮らす人々は山を降り、低地で農業を営むようになると、それと同じようなタイミングで、海外から「農薬」輸入されるようになり、生産性の向上の観点から政府も使用を推進し、低地を中心に全国的に農薬が広まり、農家のトレンドになっていきました。 しかし、農薬は輸入品なので、もちろん解説や使用要項、禁止事項、全てが外国の文字で書かれていますので、農家は読むことができません。「使えば使うだけ生産量が上がる」という魔法のような感覚でつかい続け、まさに感覚が農薬付けになってしまっています。 Sikaisone氏は、ラオスの農家の約8割は農薬を使っているといい、そのほとんどの人が、農薬の危険性を理解していないといいます。また、近年、ラオス国内の死因として「ガン」が爆発的に増えていますが、その原因の多くは、この農薬にあるといいます。食べる消費者の体への影響はもちろんですが、使用する農家の体への影響は著しく、警鐘を鳴らしています。   また、農薬を使っている農家への身体的な被害だけでなく、農薬による二次被害は、農薬をつかっていない農家にまで及んでいるといいます。これまでは、あまり観られなかったバッタやイナゴの大群が、農薬を使用していない農家の多い地域に押し寄せているのです。ラオス北部のシェンクワン県での被害は甚大で、農作物は壊滅的な状況です。 南部の主要都市パクセーから車で約1時間半のパクソンという地域は、ラオス有数の農業地帯ボロヴェン高原に位置し、コーヒーの一大生産地として飛躍を遂げています。高原ということで、山岳地帯のなかでも特に過酷な環境であったこの地域は、コーヒーの生産に力を入れるまではラオス国内でも貧しい地域で、他の地域で農薬を使用し始めたときも、なかなか農薬を手に入れられる農家がおらず、オーガニックでコーヒーをつくりはじめました。 しかし今では、「オーガニック」であるという点から、隣国のタイやベトナム、中国の「健康志向」な高所得者層から絶大な支持を得て、輸出の主要産品へと成長しました。また、ボロヴェン高原ではキャベツの生産にも力を入れており、同じく隣国に輸出されています。   農業は、消費者の行動や思考から需要を見極め生産し流通することが求められている。これは、ラオスだけでなく、日本も同じです。ラオスを見つめて観えてくること。それは、課題の中にヒントがあり、日本人も学ぶことが多いのではないでしょうか。下町の農と食で地域をつなぐ