安倍内閣の「働き方改革実現会議」決定、改正労基法策定に向けて法案が審議入りするなど、議論が進む昨今の労働事情。労働時間、特に上限規制については「電通事件」等重大な労基法違反及び労災案件が集積し、ついに青天井と呼ばれていた36協定の特別条項について超えることのできない上限規制が課されることが、議論の進捗上確実的なものとなった。

そうでなくとも、上記「電通事件」等の過重労働による健康被害は労働者だけでなく、企業の発展を阻害する重大な課題である点認識しなければならないだろう。自社の労働時間について、あるいは働き方について見直すべきとの警鐘が鳴らされている。

この点、過重労働による企業のリスクについて改めて言及していくこととする。

企業にとって浮上し見えやすいリスクとしては、労基署の調査と損害賠償請求があげられる。労基署の調査では、後述するように労基署の監督・指導にとどまらず、企業や使用者自身が書類送検(刑事責任の追及)される。また、企業名公表制度も以前より要件が緩やかになり、企業のイメージダウンはリスクとして挙げられる。加えて、損害賠償事件として労働者からの請求が認容されれば、企業のイメージダウンのみならず、高額の賠償額、顧客や取引先、金融機関に対する信用低下も招き業績に影響を与える。

また、企業にとって業績や損害として表に出ないリスクとしてメンタルヘルス不調による労働生産性の低下があげられる。これは、不調者本人の業務遂行能力の低下だけでなく、仮に不調者の自殺が起きた場合は、職場周囲にモラルの低下、新たなメンタルヘルス不調が発生する可能性もある。これにより、職場全体の休職率の上昇、利益率の低下等が起こる。これは、ある程度の時間経過があって顕在化するのであり、企業にとって見えないリスクとなるだろう。

昨今話題にも上がる、「健康経営」は労働者の健康の保持推進を実行し、労働者の健康と組織の生産性を両立し、相互作用を図るとの「健康職場モデル(米国立労働安全衛生研究所)」を経営戦略に位置づけたものであり、今後の企業経営には必須の考え方となる。

電通事件を経て、後述する労基署の調査はさらに強化されていく可能性がある。これからの企業は、このようなリスクを認識しつつ、健康的な働き方を模索していくべきであろう。

ここで、労基署の調査について解説することにする。この点労基署の調査は正式には臨検監督といい、次の4種類がある。

(1)定期監督

労働基準監督官が任意に事業所を選び、法令全般にわたって調査をする。原則は予告なしでも調査でき、多くは事前に調査日程を連絡してから来ます。

(2)申告監督

従業員もしくは退職者から、残業代が払われないとか、不当解雇されたなどと労基署に申告(通告)がされた場合に、その申告内容について確認するための調査である。

(3)災害時監督

一定以上の労働災害が発生した場合、原因究明や再発防止の指導を行うための調査である。

(4)再監督

監督結果、是正勧告を受けたのに指定期日までに「是正報告書」を提出しなかった場合や、事業所の対応が悪質であった場合などに、再度行われる調査である。

厚労省は、2016年「過労死等ゼロ」緊急対策を発表した。同対策の中には、是正指導段階での企業名公表制度の強化が盛り込まれている。それを受けて2017年1月20日に、厚労省から「違法な長時間労働や過労死等が複数事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労基署長等による指導の実施及び企業名の公表」という名前の通知がなされた。

同通知によれば、「企業名の公表」に至るには2種類のルートがあり、まず一つは「労基署長による企業の経営幹部に対する指導」である。

もう一つは、「労働局長による企業の経営トップに対する指導および企業名の公表」である。

労基署の調査に対応するには、

①雇用契約書・労働条件通知書の整備

これは、後述する労働時間についての36協定の範囲内で時間外労働を規定する必要がある。その他、労働条件が労基法の違反していないことが必要なのは言うまでもない。

②36協定(サブロク)の理解(特別条項の仕上げ方)

 

・特別条項記載例(改正予定の労基法に準拠したもの)

「一定期間における延長期間、1か月45時間、1年360時間とする。ただし、通常の生産量を大幅に超える受注が集中し、特に納期がひっ迫したときは、労使の協議を経て、6を限度として1か月○○時間まで、1年○○時間」

→○○時間について、1年においては720時間以内、1か月では休日労働を含んで100時間を超えない、かつ2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月の平均でいずれにおいても80時間以内を満たさなければならない。(波線は「臨時的な特別な事情」の具体例。)

→単月について、前述のとおり労基署の重点監督のラインは80時間以上なので、特別条項を定めるについても、そのライン以下の定めにしておくことが肝要である。

③労働時間管理の適正化

長時間労働、過重労働に関するリスクを回避する前提として、「労働時間時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を参照して、労働者の労働時間は適正に把握しておく必要があります。もし、労基署に調査に入られた場合、36協定を超える残業や、賃金不払い残業をさせていないことを証明しなければならないからだ。労働基準法109条により、企業は労働時間に関する記録の作成・保存する義務があり、その点も踏まえ、労働時間管理をする必要がある。この点、平成28年に都内3000事業場に実施した労働時間の適正把握に関する調査(東京都産業労働局調べ)によると、「労働時間の把握状況について」は、74.1%の従業員が「正確に把握されている」と回答、「限度時間の月45時間以上の時間外労働があった事業所」は、38.4%、「過労死ラインの月80時間以上の事業所」は13.2%。労働時間の適正把握について民間に業務委託することも検討されていることから、労基法違反の事業場への監督是正は今後厳しくなっていくだろう。(「労働時間の適正把握」については次記事にて紹介)

以上の、3点に特に注意して社内の規定を整備していく必要がある。

https://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/1-2.jpghttps://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/1-2-150x150.jpghatarakuba最新記事進化する組織安倍内閣の「働き方改革実現会議」決定、改正労基法策定に向けて法案が審議入りするなど、議論が進む昨今の労働事情。労働時間、特に上限規制については「電通事件」等重大な労基法違反及び労災案件が集積し、ついに青天井と呼ばれていた36協定の特別条項について超えることのできない上限規制が課されることが、議論の進捗上確実的なものとなった。 そうでなくとも、上記「電通事件」等の過重労働による健康被害は労働者だけでなく、企業の発展を阻害する重大な課題である点認識しなければならないだろう。自社の労働時間について、あるいは働き方について見直すべきとの警鐘が鳴らされている。 この点、過重労働による企業のリスクについて改めて言及していくこととする。 企業にとって浮上し見えやすいリスクとしては、労基署の調査と損害賠償請求があげられる。労基署の調査では、後述するように労基署の監督・指導にとどまらず、企業や使用者自身が書類送検(刑事責任の追及)される。また、企業名公表制度も以前より要件が緩やかになり、企業のイメージダウンはリスクとして挙げられる。加えて、損害賠償事件として労働者からの請求が認容されれば、企業のイメージダウンのみならず、高額の賠償額、顧客や取引先、金融機関に対する信用低下も招き業績に影響を与える。 また、企業にとって業績や損害として表に出ないリスクとしてメンタルヘルス不調による労働生産性の低下があげられる。これは、不調者本人の業務遂行能力の低下だけでなく、仮に不調者の自殺が起きた場合は、職場周囲にモラルの低下、新たなメンタルヘルス不調が発生する可能性もある。これにより、職場全体の休職率の上昇、利益率の低下等が起こる。これは、ある程度の時間経過があって顕在化するのであり、企業にとって見えないリスクとなるだろう。 昨今話題にも上がる、「健康経営」は労働者の健康の保持推進を実行し、労働者の健康と組織の生産性を両立し、相互作用を図るとの「健康職場モデル(米国立労働安全衛生研究所)」を経営戦略に位置づけたものであり、今後の企業経営には必須の考え方となる。 電通事件を経て、後述する労基署の調査はさらに強化されていく可能性がある。これからの企業は、このようなリスクを認識しつつ、健康的な働き方を模索していくべきであろう。 ここで、労基署の調査について解説することにする。この点労基署の調査は正式には臨検監督といい、次の4種類がある。 (1)定期監督 労働基準監督官が任意に事業所を選び、法令全般にわたって調査をする。原則は予告なしでも調査でき、多くは事前に調査日程を連絡してから来ます。 (2)申告監督 従業員もしくは退職者から、残業代が払われないとか、不当解雇されたなどと労基署に申告(通告)がされた場合に、その申告内容について確認するための調査である。 (3)災害時監督 一定以上の労働災害が発生した場合、原因究明や再発防止の指導を行うための調査である。 (4)再監督 監督結果、是正勧告を受けたのに指定期日までに「是正報告書」を提出しなかった場合や、事業所の対応が悪質であった場合などに、再度行われる調査である。 厚労省は、2016年「過労死等ゼロ」緊急対策を発表した。同対策の中には、是正指導段階での企業名公表制度の強化が盛り込まれている。それを受けて2017年1月20日に、厚労省から「違法な長時間労働や過労死等が複数事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労基署長等による指導の実施及び企業名の公表」という名前の通知がなされた。 同通知によれば、「企業名の公表」に至るには2種類のルートがあり、まず一つは「労基署長による企業の経営幹部に対する指導」である。 もう一つは、「労働局長による企業の経営トップに対する指導および企業名の公表」である。 労基署の調査に対応するには、 ①雇用契約書・労働条件通知書の整備 これは、後述する労働時間についての36協定の範囲内で時間外労働を規定する必要がある。その他、労働条件が労基法の違反していないことが必要なのは言うまでもない。 ②36協定(サブロク)の理解(特別条項の仕上げ方)   ・特別条項記載例(改正予定の労基法に準拠したもの) 「一定期間における延長期間、1か月45時間、1年360時間とする。ただし、通常の生産量を大幅に超える受注が集中し、特に納期がひっ迫したときは、労使の協議を経て、6回を限度として1か月○○時間まで、1年○○時間」 →○○時間について、1年においては720時間以内、1か月では休日労働を含んで100時間を超えない、かつ2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月の平均でいずれにおいても80時間以内を満たさなければならない。(波線は「臨時的な特別な事情」の具体例。) →単月について、前述のとおり労基署の重点監督のラインは月80時間以上なので、特別条項を定めるについても、そのライン以下の定めにしておくことが肝要である。 ③労働時間管理の適正化 長時間労働、過重労働に関するリスクを回避する前提として、「労働時間時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を参照して、労働者の労働時間は適正に把握しておく必要があります。もし、労基署に調査に入られた場合、36協定を超える残業や、賃金不払い残業をさせていないことを証明しなければならないからだ。労働基準法109条により、企業は労働時間に関する記録の作成・保存する義務があり、その点も踏まえ、労働時間管理をする必要がある。この点、平成28年に都内3000事業場に実施した労働時間の適正把握に関する調査(東京都産業労働局調べ)によると、「労働時間の把握状況について」は、74.1%の従業員が「正確に把握されている」と回答、「限度時間の月45時間以上の時間外労働があった事業所」は、38.4%、「過労死ラインの月80時間以上の事業所」は13.2%。労働時間の適正把握について民間に業務委託することも検討されていることから、労基法違反の事業場への監督是正は今後厳しくなっていくだろう。(「労働時間の適正把握」については次記事にて紹介) 以上の、3点に特に注意して社内の規定を整備していく必要がある。下町の農と食で地域をつなぐ