グラミン銀行、日本での立ち上げ検討へ
日本版グラミン銀行が始動しそうだ。グラミン銀行はノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏がバングラデシュで立ち上げたマイクロファイナンス機関。生活困窮者へ無担保・低金利で少額融資を行う。このモデルは途上国だけでなく、米英仏など先進国でも貧困脱却に一定の成果をあげている。(オルタナS編集長=池田 真隆)
グラミン日本を立ち上げる菅氏
「ユヌスさんに出会って、マイクロファイナンスをするために働いてきたとさえ思えた」
柔和な表情でそう話す男は、菅正広氏。グラミン日本を立ち上げるべく奔走している一人だ。
菅氏の経歴を紹介する。
1956年福島県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業後、大蔵省(現在の財務省)入省。OECD(経済協力開発機構)税制改革支援室長、アフリカ開発銀行理事などを経て、世界銀行日本代表理事を務めた。現在の主な肩書は、明治学院大学大学院教授(法と経営学研究科)。
著者には、『マイクロファイナンスのすすめ――貧困・格差を変えるビジネスモデル』(東洋経済新報社、2008年)や、『マイクロファイナンス――貧困と闘う「驚異の金融」』(中公新書、2009年)、『貧困克服への挑戦 構想 グラミン日本(グラミン・アメリカの実践から学ぶ先進国型マイクロファイナンス)』(明石書店、2014年)などがある。
財務省で働いていた菅氏がマイクロファイナンスの重要性に気付いたきっかけは、身内に起きたある出来事にある。2007年、祖父が営む会社が倒産した。時はリーマン・ショックが起きる直前、経済成長を市場の自由競争に頼る「新自由主義」のもとで進む格差社会。弱肉強食がもてはやされ、1社の倒産には見向きもしない世の中に違和感を覚えた。
「こんな社会にはしたくない」
マイクロファイナンスを研究するために、バングラデシュのグラミン銀行を訪ねた。ユヌス氏と面会し、日本での実現可能性について話し合った。
日本に帰国してからもマイクロファイナンスの研究を続け、数々の論文を発表した。
菅氏のもとには、メガバンクの若手で構成された有志チームが訪れ、教えを乞う回数も増えていった。しかし、通常の銀行とは異なるビジネスモデルなため、経営陣のGOサインが出ず、断念する結果が続いた。
そこで菅氏は自ら立ち上げることを決意した。今年2月にはユヌス氏と契約を結び、グラミン日本の立ち上げについて合意をもらった。
目指すは、「貧困のない社会」だ。
「日本では6人に1人が貧困ライン以下で生活している。1人親家庭に限っては、過半数が貧困状態だ。この割合は過去30年以上ずっと変わっていない。生活困窮者へ少額融資して、貧困からの脱却を支援したい」
今年8月にグラミン日本準備機構を設立し、来年夏をめどに「グラミン日本」を立ち上げる予定だ。支店立ち上げに7億円を集める。寄付や出資、クラウドファンディングなどで資金を調達していく。
グラミン日本は、ユヌス氏が定めたソーシャルビジネス7原則に基づき運営していく。7原則とは下記。
1、利益の最大化ではなく、社会問題の解決こそが目的であること
2、財務的に持続可能であること
3、投資家は投資額を回収するが、それ以上の配分は分配されないこと
4、投資額以上の利益は、ソーシャルビジネスの拡大や改善のために使うこと
5、環境へ配慮すること
6、スタッフは標準以上の労働条件・給料を得ること
7、楽しみながら仕事をすること
具体的なビジネスモデルはこうだ。
融資対象:
・貧困ライン以下の生活困窮者(約2000万人)で、働く意欲と能力がある人
・(潜在的)生活保護受給資格者やその近辺で生活する人(例、生活保護基準の1.8倍以内の低所得者)
・他の金融機関から融資を受けられる人は劣後
・互助グループを(5人1組)をつくれる人
・働いて生活をステップアップしたい人、前向きに生きていきたい人
融資額:最初の融資額は最高20万円から。2回目以降の融資額は返済状況を見ながら決める。増額可
融資期間:6カ月または1年
ローン類型:通常ローン、訓練ローン(職業訓練のために掛かる費用)
担保:無担保・連帯責任(連帯保証ではない)
融資形態:
互助グループ(5人1組)のグループ融資
毎週1回のセンター(グラミン日本の支店の下部組織)・ミーティングに参加し、融資実行前に5日間の金融トレーニングに参加できる人に限る。たとえば、メンバーは支店から0.5~1時間圏内に居住しているなどの条件つき
融資順番:2:3方式(最初に融資を受ける2人の返済状況を見て、次の3人が融資を受けられる)
金利:「ビジネスモデルによるが、収支補い、できる限りの低い金利。貸金業法の「特定非営利金融法人」の特例を利用する場合、上限7.5%」として今後検討していく方針
資金使途:融資資金は就労(起業ないし被雇用)によって所得を創出する使途に限る。所得を創出せず、費消される生活資金には融資しない
返済方式:毎週。措置期間は1週間(ローン類型により要調整) センターミーティングは毎週出席が義務
貯蓄の奨励:少額でも定期的に自己名義の金融機関口座に貯蓄する(たとえば、最低1000円/週)ことを奨励
コミュニティのネットワーク形成:
・孤立しがちな生活困窮者が互助グループを形成することで、コミュニティの基盤が強化される
・5か条の誓い(借り手の行動規範で、グラミン銀行「16か条の誓い」の日本版)をグラミン日本と借り手が一緒に議論し作成し、規律あるコミュニティづくりを目指す
融資実行の基本構造:互助グループ(5人1組)→センター→支店
借り手のビジネス:生業、副業、フリーランス、プチ起業、ワーカーズ・コープ方式のグループワーク、フランチャイズなど
就労支援・経営支援:マイクロファイナンスと連携して実施⇒連携する団体や志を同じにするサポーターを募集
5人1組の互助グループをつくることで、貸し倒れを防ぐ。日本では起業のハードルは高いため、起業支援よりも就労支援に力を入れていくという。
グラミン銀行のビジネスモデルはすでに米国や英国、フランスなどでも一定の成果を上げている。グラミンアメリカは2007年に設立し、主に貧困層の女性9万人に7.1億ドル(約800億円)を融資した。借り手は貧困層だが、貸し倒れ率は1%以下だ。
菅氏はこのモデルの成功のカギは、「社会の価値観」と見る。
コミュニティの互助の力で支え合うモデルだけに、生活困窮者を「自業自得」と考えてしまう傾向にある社会では、このモデルが浸透することは難しいだろう。
「このモデルで社会を変えるためには遠くまで行く必要がある」
菅氏はするどい眼差しで、筆者に話した。「遠く」とはどういう意味か。そう尋ねると、アフリカで教わったというこのことわざを教えてくれた。
「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」
「自分一人では、社会の価値観は到底変えることはできない。サポートしてくれる仲間が増えることで、社会の雰囲気が変わっていく」
オルタナ 2017年10月3日掲載 http://alternas.jp/work/ethical_work/72079
https://hatarakuba.com/%e3%81%a4%e3%81%aa%e3%81%8c%e3%82%8a%e3%83%bb%e3%82%b3%e3%83%9f%e3%83%a5%e3%83%8b%e3%83%86%e3%82%a3/alterna1107/https://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/11/グラミン銀行、日本での立ち上げ検討へ①.jpghttps://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/11/グラミン銀行、日本での立ち上げ検討へ①-150x150.jpgオルタナつながり・コミュニティ提携記事最新記事日本版グラミン銀行が始動しそうだ。グラミン銀行はノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏がバングラデシュで立ち上げたマイクロファイナンス機関。生活困窮者へ無担保・低金利で少額融資を行う。このモデルは途上国だけでなく、米英仏など先進国でも貧困脱却に一定の成果をあげている。(オルタナS編集長=池田 真隆) グラミン日本を立ち上げる菅氏 「ユヌスさんに出会って、マイクロファイナンスをするために働いてきたとさえ思えた」 柔和な表情でそう話す男は、菅正広氏。グラミン日本を立ち上げるべく奔走している一人だ。 菅氏の経歴を紹介する。 1956年福島県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業後、大蔵省(現在の財務省)入省。OECD(経済協力開発機構)税制改革支援室長、アフリカ開発銀行理事などを経て、世界銀行日本代表理事を務めた。現在の主な肩書は、明治学院大学大学院教授(法と経営学研究科)。 著者には、『マイクロファイナンスのすすめ――貧困・格差を変えるビジネスモデル』(東洋経済新報社、2008年)や、『マイクロファイナンス――貧困と闘う「驚異の金融」』(中公新書、2009年)、『貧困克服への挑戦 構想 グラミン日本(グラミン・アメリカの実践から学ぶ先進国型マイクロファイナンス)』(明石書店、2014年)などがある。 財務省で働いていた菅氏がマイクロファイナンスの重要性に気付いたきっかけは、身内に起きたある出来事にある。2007年、祖父が営む会社が倒産した。時はリーマン・ショックが起きる直前、経済成長を市場の自由競争に頼る「新自由主義」のもとで進む格差社会。弱肉強食がもてはやされ、1社の倒産には見向きもしない世の中に違和感を覚えた。 「こんな社会にはしたくない」 マイクロファイナンスを研究するために、バングラデシュのグラミン銀行を訪ねた。ユヌス氏と面会し、日本での実現可能性について話し合った。 日本に帰国してからもマイクロファイナンスの研究を続け、数々の論文を発表した。 菅氏のもとには、メガバンクの若手で構成された有志チームが訪れ、教えを乞う回数も増えていった。しかし、通常の銀行とは異なるビジネスモデルなため、経営陣のGOサインが出ず、断念する結果が続いた。 そこで菅氏は自ら立ち上げることを決意した。今年2月にはユヌス氏と契約を結び、グラミン日本の立ち上げについて合意をもらった。 目指すは、「貧困のない社会」だ。 「日本では6人に1人が貧困ライン以下で生活している。1人親家庭に限っては、過半数が貧困状態だ。この割合は過去30年以上ずっと変わっていない。生活困窮者へ少額融資して、貧困からの脱却を支援したい」 今年8月にグラミン日本準備機構を設立し、来年夏をめどに「グラミン日本」を立ち上げる予定だ。支店立ち上げに7億円を集める。寄付や出資、クラウドファンディングなどで資金を調達していく。 グラミン日本は、ユヌス氏が定めたソーシャルビジネス7原則に基づき運営していく。7原則とは下記。 1、利益の最大化ではなく、社会問題の解決こそが目的であること 2、財務的に持続可能であること 3、投資家は投資額を回収するが、それ以上の配分は分配されないこと 4、投資額以上の利益は、ソーシャルビジネスの拡大や改善のために使うこと 5、環境へ配慮すること 6、スタッフは標準以上の労働条件・給料を得ること 7、楽しみながら仕事をすること 具体的なビジネスモデルはこうだ。 融資対象: ・貧困ライン以下の生活困窮者(約2000万人)で、働く意欲と能力がある人 ・(潜在的)生活保護受給資格者やその近辺で生活する人(例、生活保護基準の1.8倍以内の低所得者) ・他の金融機関から融資を受けられる人は劣後 ・互助グループを(5人1組)をつくれる人 ・働いて生活をステップアップしたい人、前向きに生きていきたい人 融資額:最初の融資額は最高20万円から。2回目以降の融資額は返済状況を見ながら決める。増額可 融資期間:6カ月または1年 ローン類型:通常ローン、訓練ローン(職業訓練のために掛かる費用) 担保:無担保・連帯責任(連帯保証ではない) 融資形態: 互助グループ(5人1組)のグループ融資 毎週1回のセンター(グラミン日本の支店の下部組織)・ミーティングに参加し、融資実行前に5日間の金融トレーニングに参加できる人に限る。たとえば、メンバーは支店から0.5~1時間圏内に居住しているなどの条件つき 融資順番:2:3方式(最初に融資を受ける2人の返済状況を見て、次の3人が融資を受けられる) 金利:「ビジネスモデルによるが、収支補い、できる限りの低い金利。貸金業法の「特定非営利金融法人」の特例を利用する場合、上限7.5%」として今後検討していく方針 資金使途:融資資金は就労(起業ないし被雇用)によって所得を創出する使途に限る。所得を創出せず、費消される生活資金には融資しない 返済方式:毎週。措置期間は1週間(ローン類型により要調整) センターミーティングは毎週出席が義務 貯蓄の奨励:少額でも定期的に自己名義の金融機関口座に貯蓄する(たとえば、最低1000円/週)ことを奨励 コミュニティのネットワーク形成: ・孤立しがちな生活困窮者が互助グループを形成することで、コミュニティの基盤が強化される ・5か条の誓い(借り手の行動規範で、グラミン銀行「16か条の誓い」の日本版)をグラミン日本と借り手が一緒に議論し作成し、規律あるコミュニティづくりを目指す 融資実行の基本構造:互助グループ(5人1組)→センター→支店 借り手のビジネス:生業、副業、フリーランス、プチ起業、ワーカーズ・コープ方式のグループワーク、フランチャイズなど 就労支援・経営支援:マイクロファイナンスと連携して実施⇒連携する団体や志を同じにするサポーターを募集 5人1組の互助グループをつくることで、貸し倒れを防ぐ。日本では起業のハードルは高いため、起業支援よりも就労支援に力を入れていくという。 グラミン銀行のビジネスモデルはすでに米国や英国、フランスなどでも一定の成果を上げている。グラミンアメリカは2007年に設立し、主に貧困層の女性9万人に7.1億ドル(約800億円)を融資した。借り手は貧困層だが、貸し倒れ率は1%以下だ。 菅氏はこのモデルの成功のカギは、「社会の価値観」と見る。 コミュニティの互助の力で支え合うモデルだけに、生活困窮者を「自業自得」と考えてしまう傾向にある社会では、このモデルが浸透することは難しいだろう。 「このモデルで社会を変えるためには遠くまで行く必要がある」 菅氏はするどい眼差しで、筆者に話した。「遠く」とはどういう意味か。そう尋ねると、アフリカで教わったというこのことわざを教えてくれた。 「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」 「自分一人では、社会の価値観は到底変えることはできない。サポートしてくれる仲間が増えることで、社会の雰囲気が変わっていく」 オルタナ 2017年10月3日掲載 http://alternas.jp/work/ethical_work/72079hatarakuba info@jinji-roumu.comAdministrator903シティファーム推進協議会
コメントを残す