企業の働き方を見直す動きが活発になっている。ユニリーバ・ジャパンは従来の在宅勤務制度などを見直し、働く場所や時間を社員が自由に選べる新人事制度「WAA」を昨年7月から取り入れた。上司に申請すれば、理由を問わず自宅、カフェなど会社以外の場所でも勤務ができる。同社はWAAの趣旨を広く社外にも広めたいと、社外向け説明会を毎月開催している。同様に、カルビーも今年4月から社外で勤務する「テレワーク」の上限を撤廃。日本マクドナルドも今後、在宅勤務できる日数を最大週5日に拡大する。(箕輪 弥生)

働き方改革がさまざまな場
で広がっている。ユニリーバ
「Team WAA!セッション」
でファシリテーターを務める
島田由香・人事総務本部長

ユニリーバの新人事制度「WAA」は、「Work from Anywhere and Anytime」の略で「ワー」と読む。上司が認めれば、場所や時間を問わず働くことができる自由度の高い制度である。

以前から、フレックスタイムや在宅勤務制度はあったが、働かなければいけないコアタイムや自宅勤務という縛りを撤廃した。そのため、どこで何時間働くかは基本的に働く人が決められる。たとえば、午前中は育児や通院に当てたり、自分の好きなスポーツを平日に行ったりすることも可能だ。ある社員は年末年始を含め1ヶ月を地方の実家で勤務したという。社内会議は、インターネットを使いスカイプなどで出席することもできる。

WAAを使う場合は、直属の上司に事前に申請し、承認を得る必要がある。社員本人が勤務時間・休憩時間を記録し、上司はその記録を見て事前申請通りかを確認し、チームマネジメントを行っている。

社内アンケートによると、導入されて11ヶ月でこの制度を使ったことのある社員は9割にのぼった。「仕事の生産性があがった」と感じる人も全体の7割を超えるという。同社の伊藤征慶コミュニケーション部長は「働く場や時間を自分で選ぶことができるので社員のモチベーションがあがっている」と話す。

WAAの導入は労働時間の削減にもつながっている。社内調査によると、WAAの導入後、労働時間は全体で15%削減され、残業時間が月45時間以上だった人が3割以上減った。伊藤コミュニケーション部長は、「残業時間を減らすために導入したわけではないが、生産性があがった結果、残業も減った」と説明する。

同社は、「人生を楽しむために自分に合った働き方を選び、仕事の生産性をあげてほしい」という経営トップのビジョンからWAAの導入に至った。いわゆるトップダウンの制度である。ライススタイルが多様化する今、働き方の柔軟性、多様性を高めたことが、ワーク・ライフ・バランスを改善し、企業の生産性をあげることにつながったのである。

 

新しい働き方を広める動きも活発に

6月の「Team WAA!セッション」では、WAA推進のための
「マインドセット」や「エンパワーメント」を議論する
グループが多かった


ユニリーバ・ジャパンでは、WAAの趣旨を社外にも広げようと毎月「WAA説明会」やセッションを開催している。今年1月からはWAAのような新しい働き方に共感し実現していこうとするネットワーク「Team WAA!」を立ち上げた。毎回、人事担当者などが参加し、満員となる盛況ぶりで、これまでに登録されたメンバーは300社以上、500名を超えた。同社の島田由香・人事総務本部長は「たんぽぽのようにここから種が飛び、さまざまな企業で芽を出し、花を咲かせてほしい」と広がりに期待する。

「WAA説明会」に参加し、影響を受けた企業にカルビーがある。同社は4月からテレワークの上限週2日を撤廃し、毎日、自宅だけでなくどこでも働くことのできる制度を導入した。元々、経営陣がテレワークを推進したい考えがあったことや、社員からのモバイルワーク制度の拡充を望む声があり、同制度へと改革を進めた。同社人事総務部中村有佑さんは、「働き方の固定観念をほぐし、さらに社員の利用率をあげていきたい」と話す。

同社は、この夏に東京都が実施する、通勤ラッシュを回避するために通勤時間をずらす取り組み「時差BIZ」にも参加する。これは、「満員電車ゼロ」を政策目標のひとつにあげる東京都小池百合子都知事の主導のもと、7月11日から2週間、オフピーク通勤を後押しする取り組みを企業や鉄道事業者に呼びかけるというものだ。

ユニリーバ・ジャパンは、「新しい働き方」に共感し、実現していこうとする企業・団体・個人のネットワークを立ち上げた

ユニリーバでも、WAAを導入してから「満員電車を避けて通勤することで疲労感が大きく削減された」という意見が数多く寄せられているという。近くのシェアオフィスで数時間働いてから出社する社員がいるなど、オフピーク通勤の工夫例も多い。東京都では「時差BIZ」を実施した2週間の結果をフィードバックし、働き方改革の具体案として推進していく意向だ。

日本マクドナルドも、在宅勤務を週1日から5日に拡大する予定だ。現在、導入に向けて社内の意見を集約している段階だが、より柔軟でワーク・ライフ・バランスに配慮した制度を推進していく意向だ。同社コミュニケーション本部PR部・當山心コンサルタントは、「育児、介護、通院など家庭と仕事の両立や、テレワークによるすきま時間の活用などによって、更に生産性や協働性を高められたら」と制度の導入に期待する。

働き方改革は、残業を減らす、労働環境を改善するといったマイナス改善のフェーズから、仕事の生産性をあげ、より積極的に人生を楽しむために働き方を選ぶ段階に入ったようだ。

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)
環境ライター・マーケティングプランナー・NPO法人『そらべあ基金』理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に『エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123』『環境生活のススメ』(飛鳥新社)『LOHASで行こう!』(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

 

オルタナ2017年6月30日掲載 http://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1189122_1534.html

https://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/08/2.jpeghttps://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/08/2-150x150.jpeghatarakubaオルタナ進化する組織企業の働き方を見直す動きが活発になっている。ユニリーバ・ジャパンは従来の在宅勤務制度などを見直し、働く場所や時間を社員が自由に選べる新人事制度「WAA」を昨年7月から取り入れた。上司に申請すれば、理由を問わず自宅、カフェなど会社以外の場所でも勤務ができる。同社はWAAの趣旨を広く社外にも広めたいと、社外向け説明会を毎月開催している。同様に、カルビーも今年4月から社外で勤務する「テレワーク」の上限を撤廃。日本マクドナルドも今後、在宅勤務できる日数を最大週5日に拡大する。(箕輪 弥生) 働き方改革がさまざまな場 で広がっている。ユニリーバ 「Team WAA!セッション」 でファシリテーターを務める 島田由香・人事総務本部長 ユニリーバの新人事制度「WAA」は、「Work from Anywhere and Anytime」の略で「ワー」と読む。上司が認めれば、場所や時間を問わず働くことができる自由度の高い制度である。 以前から、フレックスタイムや在宅勤務制度はあったが、働かなければいけないコアタイムや自宅勤務という縛りを撤廃した。そのため、どこで何時間働くかは基本的に働く人が決められる。たとえば、午前中は育児や通院に当てたり、自分の好きなスポーツを平日に行ったりすることも可能だ。ある社員は年末年始を含め1ヶ月を地方の実家で勤務したという。社内会議は、インターネットを使いスカイプなどで出席することもできる。 WAAを使う場合は、直属の上司に事前に申請し、承認を得る必要がある。社員本人が勤務時間・休憩時間を記録し、上司はその記録を見て事前申請通りかを確認し、チームマネジメントを行っている。 社内アンケートによると、導入されて11ヶ月でこの制度を使ったことのある社員は9割にのぼった。「仕事の生産性があがった」と感じる人も全体の7割を超えるという。同社の伊藤征慶コミュニケーション部長は「働く場や時間を自分で選ぶことができるので社員のモチベーションがあがっている」と話す。 WAAの導入は労働時間の削減にもつながっている。社内調査によると、WAAの導入後、労働時間は全体で15%削減され、残業時間が月45時間以上だった人が3割以上減った。伊藤コミュニケーション部長は、「残業時間を減らすために導入したわけではないが、生産性があがった結果、残業も減った」と説明する。 同社は、「人生を楽しむために自分に合った働き方を選び、仕事の生産性をあげてほしい」という経営トップのビジョンからWAAの導入に至った。いわゆるトップダウンの制度である。ライススタイルが多様化する今、働き方の柔軟性、多様性を高めたことが、ワーク・ライフ・バランスを改善し、企業の生産性をあげることにつながったのである。   新しい働き方を広める動きも活発に 6月の「Team WAA!セッション」では、WAA推進のための 「マインドセット」や「エンパワーメント」を議論する グループが多かった ユニリーバ・ジャパンでは、WAAの趣旨を社外にも広げようと毎月「WAA説明会」やセッションを開催している。今年1月からはWAAのような新しい働き方に共感し実現していこうとするネットワーク「Team WAA!」を立ち上げた。毎回、人事担当者などが参加し、満員となる盛況ぶりで、これまでに登録されたメンバーは300社以上、500名を超えた。同社の島田由香・人事総務本部長は「たんぽぽのようにここから種が飛び、さまざまな企業で芽を出し、花を咲かせてほしい」と広がりに期待する。 「WAA説明会」に参加し、影響を受けた企業にカルビーがある。同社は4月からテレワークの上限週2日を撤廃し、毎日、自宅だけでなくどこでも働くことのできる制度を導入した。元々、経営陣がテレワークを推進したい考えがあったことや、社員からのモバイルワーク制度の拡充を望む声があり、同制度へと改革を進めた。同社人事総務部中村有佑さんは、「働き方の固定観念をほぐし、さらに社員の利用率をあげていきたい」と話す。 同社は、この夏に東京都が実施する、通勤ラッシュを回避するために通勤時間をずらす取り組み「時差BIZ」にも参加する。これは、「満員電車ゼロ」を政策目標のひとつにあげる東京都小池百合子都知事の主導のもと、7月11日から2週間、オフピーク通勤を後押しする取り組みを企業や鉄道事業者に呼びかけるというものだ。 ユニリーバ・ジャパンは、「新しい働き方」に共感し、実現していこうとする企業・団体・個人のネットワークを立ち上げた ユニリーバでも、WAAを導入してから「満員電車を避けて通勤することで疲労感が大きく削減された」という意見が数多く寄せられているという。近くのシェアオフィスで数時間働いてから出社する社員がいるなど、オフピーク通勤の工夫例も多い。東京都では「時差BIZ」を実施した2週間の結果をフィードバックし、働き方改革の具体案として推進していく意向だ。 日本マクドナルドも、在宅勤務を週1日から5日に拡大する予定だ。現在、導入に向けて社内の意見を集約している段階だが、より柔軟でワーク・ライフ・バランスに配慮した制度を推進していく意向だ。同社コミュニケーション本部PR部・當山心コンサルタントは、「育児、介護、通院など家庭と仕事の両立や、テレワークによるすきま時間の活用などによって、更に生産性や協働性を高められたら」と制度の導入に期待する。 働き方改革は、残業を減らす、労働環境を改善するといったマイナス改善のフェーズから、仕事の生産性をあげ、より積極的に人生を楽しむために働き方を選ぶ段階に入ったようだ。 箕輪 弥生 (みのわ・やよい) 環境ライター・マーケティングプランナー・NPO法人『そらべあ基金』理事。 東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に『エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123』『環境生活のススメ』(飛鳥新社)『LOHASで行こう!』(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。   オルタナ2017年6月30日掲載 http://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1189122_1534.html下町の農と食で地域をつなぐ