産業革命がもたらしたイノベーションは、単品の低コスト生産や標準化であり、それを消費し、使用する顧客にとっての価値そのものの革新ではなかった。モノが不足していた時代には、着飾る服も食べ物もその基本価値を安く手に入ることは万人のニーズであったため、価値自体を議論する必要がなかったのだ。


復興支援で、日本アムウェイが岩手県大槌町に建設した「Remember HOPE 浪板海岸ヴィレッジ」

そしてバブル経済崩壊後の日本企業は、さらに生産コストを切り下げるために安い人件費を求めて次々に海外へと生産地を移転した。しかしこれにも限界がある。

先進国・成熟国がこれからつくるべき価値は「体験価値」だ。ある時間や空間を過ごす生活者の満足感をいかに引き上げていくかである。そのためには単品の価値ではなく、生活者自身の声を聞きながら、課題解決を図るパートナーを探し、提携する場こそがカギとなる。

17世紀のクレモナで作られたヴァイオリン 『ストラディバリウス』が、いまでも最高の名器と言われるのはなぜか?現代の技術でこれを上回るヴァイオリンが作れるか、作れないかという論争があるが、それは問題の核心ではない。

音楽会を楽しむ耳の肥えた貴族、音楽を奏でる演奏家や作曲家、そしてヴァイオリンを作る楽器製作者が出揃うサロンは、相互に批評しあった場であったという。当時のクレモナの三位一体の環境にこそ価値があったのだ。イノベーションに予算や人財が不足していると言いがちであるが、実はオープン・イノベーションの磁場にこそ価値がある。

過日、全国に広がるワインツーリズムの仕掛人、大木貴之さんの話しを聞いた。地域を代表するワインに可能性を見出し、地域のアイデンティティをつくるために、ワイナリーだけではなく、行政、バス会社、NPOのボランティアと連携し、お客様が集う『磁場づくり』に成功した。

ワインはもちろん、散策するときの風景、地産地消の食材、周囲の情景や造り手との会話といった体験こそが価値となる。各々のタコツボから脱して新しい価値を創造する取り組みを「クロス バリュー戦略」と呼ぶ(図表参照)。事業者同士のCo-petition(協調と競争)はもちろんであるが、顧客と事業者や関係者が相互批評できる場にこそ意味がある。

往々にして地域再生はさまざまな関係者の目的も組織も予算もバラバラだ。それでは地域間競争では戦えない。インセンティブ・デザインをどのように仕掛けていくのか。そのためのフラッグシップ(御旗)となりうる何かに集約し、戦略と調整をしていくのかがプロデュース力となる。

東北の震災復興に訪れた企業は多い。そのなかで日本アムウェイは「Remember HOPE(希望を忘れない)東北復興支援プロジェクト」として、地域づくりの拠点となる延床面積80坪ほどのアムウェイハウスを各地に作っている。それぞれの地域のニーズにあったオシャレな建物であるが、地域の住民が集う場所となっている。

さらに復興支援への依存ではなく、観光地として自立できるサービス事業者を目指そうとする地域住民に対し、ザ・リッツ・カールトンと組んでホスピタリティのマネジメントのノウハウを指導する講座を行っている。アムウェイハウスは単なるハードではなく、新しい東北の生き方を作るために、地域住民やボランティアや企業がクロス バリューを生み出す磁場となり始めている。

ヴァイオリンもワインも震災復興にも共通するのは、さまざまな関係者が連携する場となること。そのフラッグシップ(御旗)の元に、各者(社)のインセンティブがうまく回っていく仕組みこそが重要なのだ。

利益追求の事業からだけでは出会えない偶発性や新しい関係性を呼び込む磁場がCSRにはある。多くの参加者が語るように「人生観が変わった」「清々しい気持ちになった」ということも重要である。だが、企業の新規事業やイノベーションへの拡張可能性や人間関係投資として、社内に吸い上げていく仕掛け作りもCSR部の役割であろう。「良樹細根・大樹深根」というが、企業が細かく深く根を張るための土壌づくりを期待したい。

 


青木 茂樹

1968年 千葉県佐倉市生まれ。駒澤大学経営学部市場戦略学科教授。
慶應義塾大学大学院博士課程単位取得、山梨学院大学商学部教授、University of Southern California Marshall School Visiting Scholar。

企業のマーケティング・コンサルティング、住民参加型の地域活性化および観光の事業構築、マスメディアやSNS、人的ネットワークによるパブリシティの構築を専門とし、山梨県産業振興ビジョン策定委員会委員、山梨県特選農産物認証委員会委員、甲府市商工業振興協議会会長、南アルプス・フルーツ劇場プロジェクト会長、やまなし大使を歴任。2008年経済産業省「第1回社会人基礎力育成グランプリ大賞」受賞を指導。また地域活性化としてNPOやまなしサイクルプロジェクト理事長も務める。
http://yamanashi.hyakusaka.com/

著書には『コンテクストデザイン戦略:―価値発現のための理論と実践―』芙蓉書房出版、2012年、戦略的マーケティングの構図—マーケティング研究のおける現代的諸問題』同文館出版、2014年など多数。

 

提携企業:オルタナ  2017年2月23日掲載

http://www.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/1188796_1535.html

 

http://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/12-1.jpghttp://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/12-1-150x150.jpghatarakubaオルタナライフ×ワークスタイル提携記事産業革命がもたらしたイノベーションは、単品の低コスト生産や標準化であり、それを消費し、使用する顧客にとっての価値そのものの革新ではなかった。モノが不足していた時代には、着飾る服も食べ物もその基本価値を安く手に入ることは万人のニーズであったため、価値自体を議論する必要がなかったのだ。 復興支援で、日本アムウェイが岩手県大槌町に建設した「Remember HOPE 浪板海岸ヴィレッジ」 そしてバブル経済崩壊後の日本企業は、さらに生産コストを切り下げるために安い人件費を求めて次々に海外へと生産地を移転した。しかしこれにも限界がある。 先進国・成熟国がこれからつくるべき価値は「体験価値」だ。ある時間や空間を過ごす生活者の満足感をいかに引き上げていくかである。そのためには単品の価値ではなく、生活者自身の声を聞きながら、課題解決を図るパートナーを探し、提携する場こそがカギとなる。 17世紀のクレモナで作られたヴァイオリン 『ストラディバリウス』が、いまでも最高の名器と言われるのはなぜか?現代の技術でこれを上回るヴァイオリンが作れるか、作れないかという論争があるが、それは問題の核心ではない。 音楽会を楽しむ耳の肥えた貴族、音楽を奏でる演奏家や作曲家、そしてヴァイオリンを作る楽器製作者が出揃うサロンは、相互に批評しあった場であったという。当時のクレモナの三位一体の環境にこそ価値があったのだ。イノベーションに予算や人財が不足していると言いがちであるが、実はオープン・イノベーションの磁場にこそ価値がある。 過日、全国に広がるワインツーリズムの仕掛人、大木貴之さんの話しを聞いた。地域を代表するワインに可能性を見出し、地域のアイデンティティをつくるために、ワイナリーだけではなく、行政、バス会社、NPOのボランティアと連携し、お客様が集う『磁場づくり』に成功した。 ワインはもちろん、散策するときの風景、地産地消の食材、周囲の情景や造り手との会話といった体験こそが価値となる。各々のタコツボから脱して新しい価値を創造する取り組みを「クロス バリュー戦略」と呼ぶ(図表参照)。事業者同士のCo-petition(協調と競争)はもちろんであるが、顧客と事業者や関係者が相互批評できる場にこそ意味がある。 往々にして地域再生はさまざまな関係者の目的も組織も予算もバラバラだ。それでは地域間競争では戦えない。インセンティブ・デザインをどのように仕掛けていくのか。そのためのフラッグシップ(御旗)となりうる何かに集約し、戦略と調整をしていくのかがプロデュース力となる。 東北の震災復興に訪れた企業は多い。そのなかで日本アムウェイは「Remember HOPE(希望を忘れない)東北復興支援プロジェクト」として、地域づくりの拠点となる延床面積80坪ほどのアムウェイハウスを各地に作っている。それぞれの地域のニーズにあったオシャレな建物であるが、地域の住民が集う場所となっている。 さらに復興支援への依存ではなく、観光地として自立できるサービス事業者を目指そうとする地域住民に対し、ザ・リッツ・カールトンと組んでホスピタリティのマネジメントのノウハウを指導する講座を行っている。アムウェイハウスは単なるハードではなく、新しい東北の生き方を作るために、地域住民やボランティアや企業がクロス バリューを生み出す磁場となり始めている。 ヴァイオリンもワインも震災復興にも共通するのは、さまざまな関係者が連携する場となること。そのフラッグシップ(御旗)の元に、各者(社)のインセンティブがうまく回っていく仕組みこそが重要なのだ。 利益追求の事業からだけでは出会えない偶発性や新しい関係性を呼び込む磁場がCSRにはある。多くの参加者が語るように「人生観が変わった」「清々しい気持ちになった」ということも重要である。だが、企業の新規事業やイノベーションへの拡張可能性や人間関係投資として、社内に吸い上げていく仕掛け作りもCSR部の役割であろう。「良樹細根・大樹深根」というが、企業が細かく深く根を張るための土壌づくりを期待したい。   青木 茂樹 1968年 千葉県佐倉市生まれ。駒澤大学経営学部市場戦略学科教授。 慶應義塾大学大学院博士課程単位取得、山梨学院大学商学部教授、University of Southern California Marshall School Visiting Scholar。 企業のマーケティング・コンサルティング、住民参加型の地域活性化および観光の事業構築、マスメディアやSNS、人的ネットワークによるパブリシティの構築を専門とし、山梨県産業振興ビジョン策定委員会委員、山梨県特選農産物認証委員会委員、甲府市商工業振興協議会会長、南アルプス・フルーツ劇場プロジェクト会長、やまなし大使を歴任。2008年経済産業省「第1回社会人基礎力育成グランプリ大賞」受賞を指導。また地域活性化としてNPOやまなしサイクルプロジェクト理事長も務める。 http://yamanashi.hyakusaka.com/ 著書には『コンテクストデザイン戦略:―価値発現のための理論と実践―』芙蓉書房出版、2012年、戦略的マーケティングの構図—マーケティング研究のおける現代的諸問題』同文館出版、2014年など多数。   提携企業:オルタナ  2017年2月23日掲載 http://www.sustainablebrands.jp/article/sbjeye/detail/1188796_1535.html  つながりの中で 自分らしい 新しいはたらくカタチ の実現を後押しする情報サイト