このコラムに投稿させていただくにあたり、「何をテーマの軸にして自分の思いを伝えようか」様々思案した。そこで、2015年9月、国連サミットおいて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダSustainable Development Goals=SDGs」を、このコラムを通じて、より身近なものに引き寄せることはできないだろうかと、閃いた。私の身の回りで起きている出来事を、SDGsに掲げられた「17の目標」の視点からできるだけ平易に見つめ直したらどうなるだろうかと。(少なからずともこれで17回は投稿できるなぁ・・・笑)

記念すべき?第一回は、『開発途上国における障がい者の自立支援』について、「SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう」という視点から、皆さんと一緒に考えてみたい。

本題に入る前に、多少、私の「素性」を皆さんにお伝えしなければならないであろう。私は現在、首都圏において150店舗ほど保険(調剤)薬局を展開する薬樹株式会社のグループ企業で障がい者雇用を推進する「特例子会社薬樹ウィル」に所属している。

様々な障がいを持った20名の仲間、それをサポートしてくれる10名のスタッフと共に、一人でも多くの社会的自立を実現しようと日々邁進している。

仲間の中には、定期的に個展を開催するほどの絵画の才能を持つメンバーや、昨年開催された「いわて国体障がい者大会」の水泳競技(バタフライ)にて「銅メダル2個を獲得」したメンバーもいるなど、その秀でた能力にはいつも新鮮な驚きを感じている。

前者のUさん(42歳)は、自閉症と重度の知的障がいを持ち、薬樹ウィルが設立された2010年から初期メンバーとして活躍してくれている。

今回、ベトナム・ハノイを訪れることができたのも、そんな才能溢れるメンバーとそのご家族が、長年に渡って、障がい者の自立支援に関する様々な活動を継続してこられた賜物である。

今回参加したイベントは、ベトナム自閉症ネットワーク(Vietnam Autism Network:VAN)が主催する「自閉症者アート展示会 in ハノイ」で、Uさんの絵画が特別招待展示されたのです。

この展示会は、絵画展示のみならず様々な造形アートや音楽もミックスしたとても魅力的なイベントであった。

1日目は、ベトナムの正装「アオザイ」を身にまとったお母様方に囲まれた素敵なオープニング・セレモニーに始まり、午後は自閉症のお子様をもったご家族向けのワークショップが開催され、Uさんのお母様が「思春期以降の理解と支援」というテーマで熱弁を振るった。


オープニング・セレモニー

合間ではテレビ局数局の取材も入り、国営放送局であるベトナムテレビジョン(VTV)でもこの日の様子がしっかりと放映された。


インタビューを受けるVANメンバー(ご家族)

2日目の午前中は、VANの中心的な役割を担っている6家族の皆さんとの対話集会を通じて本音ベースで意見交換。


ワークショップ

午後は、Uさんが薬樹ウィルで働いている様子をビデオ上映しながら、日本における障がい者の社会参画について説明すると、なんと、予定の2時間を30分以上も超過して、その熱意と真剣さに終始圧倒されっぱなしだった。


会場となったベトナム女性博物館

主催者であるVANのスタッフによれば、ベトナムでは、このような展示会や音楽の演奏についても自由に活動することはできず、原則、政府の許可が必要であると伺った。

さらに、根本的な課題として、NPOやNGOといった非営利の法人組織形態が認められていない。VAN自体もボランティア活動を前提とした任意団体として、社会変革を実現しようとこのような草の根活動を地道に継続しているのである。

もちろん、日本と「社会主義国」であるベトナムの状況を単純に比較することはできない。

日本とは違い、支援校や就労支援制度が未だ整備されず、ましてや、「企業での就労など“夢のまた夢”」のような状況にあっては、ご家族の支援のもと、グループホームに住みながら定職につき自立した生活を送るUさんは、ベトナムにおいても障がいを持つすべての人々の「希望の星☆」なのだと痛感した!

「私たちがこの世を去っても、自立した幸せな人生を送ってほしい」

様々な障がいを持つお子様に対する「唯一無二」ともいえる親の思いは、国境を越えたベトナムの地においても、“世界共通の社会課題である”と心底実感した旅でもあった。

現在の世界情勢に目を転じれば、地域紛争にともなう難民問題、その問題とも関連した極右政党の台頭、アメリカ・トランプ政権に代表される保護主義への傾倒など、世界中が「不寛容」な方向へと流れつつあると感じているのは私だけであろうか。

薬樹ウィルでの日常的な経験や、ベトナム・ハノイでの刺激的な体験を通じて、パーソナルな障がいの有無が問題ではなく、それを理解し受け止める側が「心の壁=不寛容という障がい」を乗り越えなければならないと、強く内省を促された。

人口減少時代に突入した日本において、『開発途上国における障がい者の自立支援』というテーマを「SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう」という視点から俯瞰したとき、新たな時代における国際貢献のあるべき姿が浮かび上がってくると確信している。

薬樹ウィル株式会社 代表取締役
1989年 薬樹株式会社入社。2010年、同グループ内においてNPO法人liko-net設立に参画、環境先進地域・岩手県葛巻町との協働や、ソーシャルイノベーションセミナー・青山ソーシャル映画祭などの企画を通じて社会課題啓発活動を展開している。2011年には、学術団体地域デザイン学会設立にも参画し、同学会の理事も務める。著書には『地域ブランドのコンテクストデザイン(共著)』、『海と島のブランディング(共著)』など。

提携企業:オルタナ http://www.alterna.co.jp/20775 2017年3月31日掲載

https://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/11-2.jpghttps://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/11-2-150x150.jpghatarakubaオルタナライフ×ワークスタイル提携記事このコラムに投稿させていただくにあたり、「何をテーマの軸にして自分の思いを伝えようか」様々思案した。そこで、2015年9月、国連サミットおいて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダSustainable Development Goals=SDGs」を、このコラムを通じて、より身近なものに引き寄せることはできないだろうかと、閃いた。私の身の回りで起きている出来事を、SDGsに掲げられた「17の目標」の視点からできるだけ平易に見つめ直したらどうなるだろうかと。(少なからずともこれで17回は投稿できるなぁ・・・笑) 記念すべき?第一回は、『開発途上国における障がい者の自立支援』について、「SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう」という視点から、皆さんと一緒に考えてみたい。 本題に入る前に、多少、私の「素性」を皆さんにお伝えしなければならないであろう。私は現在、首都圏において150店舗ほど保険(調剤)薬局を展開する薬樹株式会社のグループ企業で障がい者雇用を推進する「特例子会社薬樹ウィル」に所属している。 様々な障がいを持った20名の仲間、それをサポートしてくれる10名のスタッフと共に、一人でも多くの社会的自立を実現しようと日々邁進している。 仲間の中には、定期的に個展を開催するほどの絵画の才能を持つメンバーや、昨年開催された「いわて国体障がい者大会」の水泳競技(バタフライ)にて「銅メダル2個を獲得」したメンバーもいるなど、その秀でた能力にはいつも新鮮な驚きを感じている。 前者のUさん(42歳)は、自閉症と重度の知的障がいを持ち、薬樹ウィルが設立された2010年から初期メンバーとして活躍してくれている。 今回、ベトナム・ハノイを訪れることができたのも、そんな才能溢れるメンバーとそのご家族が、長年に渡って、障がい者の自立支援に関する様々な活動を継続してこられた賜物である。 今回参加したイベントは、ベトナム自閉症ネットワーク(Vietnam Autism Network:VAN)が主催する「自閉症者アート展示会 in ハノイ」で、Uさんの絵画が特別招待展示されたのです。 この展示会は、絵画展示のみならず様々な造形アートや音楽もミックスしたとても魅力的なイベントであった。 1日目は、ベトナムの正装「アオザイ」を身にまとったお母様方に囲まれた素敵なオープニング・セレモニーに始まり、午後は自閉症のお子様をもったご家族向けのワークショップが開催され、Uさんのお母様が「思春期以降の理解と支援」というテーマで熱弁を振るった。 オープニング・セレモニー 合間ではテレビ局数局の取材も入り、国営放送局であるベトナムテレビジョン(VTV)でもこの日の様子がしっかりと放映された。 インタビューを受けるVANメンバー(ご家族) 2日目の午前中は、VANの中心的な役割を担っている6家族の皆さんとの対話集会を通じて本音ベースで意見交換。 ワークショップ 午後は、Uさんが薬樹ウィルで働いている様子をビデオ上映しながら、日本における障がい者の社会参画について説明すると、なんと、予定の2時間を30分以上も超過して、その熱意と真剣さに終始圧倒されっぱなしだった。 会場となったベトナム女性博物館 主催者であるVANのスタッフによれば、ベトナムでは、このような展示会や音楽の演奏についても自由に活動することはできず、原則、政府の許可が必要であると伺った。 さらに、根本的な課題として、NPOやNGOといった非営利の法人組織形態が認められていない。VAN自体もボランティア活動を前提とした任意団体として、社会変革を実現しようとこのような草の根活動を地道に継続しているのである。 もちろん、日本と「社会主義国」であるベトナムの状況を単純に比較することはできない。 日本とは違い、支援校や就労支援制度が未だ整備されず、ましてや、「企業での就労など“夢のまた夢”」のような状況にあっては、ご家族の支援のもと、グループホームに住みながら定職につき自立した生活を送るUさんは、ベトナムにおいても障がいを持つすべての人々の「希望の星☆」なのだと痛感した! 「私たちがこの世を去っても、自立した幸せな人生を送ってほしい」 様々な障がいを持つお子様に対する「唯一無二」ともいえる親の思いは、国境を越えたベトナムの地においても、“世界共通の社会課題である”と心底実感した旅でもあった。 現在の世界情勢に目を転じれば、地域紛争にともなう難民問題、その問題とも関連した極右政党の台頭、アメリカ・トランプ政権に代表される保護主義への傾倒など、世界中が「不寛容」な方向へと流れつつあると感じているのは私だけであろうか。 薬樹ウィルでの日常的な経験や、ベトナム・ハノイでの刺激的な体験を通じて、パーソナルな障がいの有無が問題ではなく、それを理解し受け止める側が「心の壁=不寛容という障がい」を乗り越えなければならないと、強く内省を促された。 人口減少時代に突入した日本において、『開発途上国における障がい者の自立支援』というテーマを「SDGs目標10:人や国の不平等をなくそう」という視点から俯瞰したとき、新たな時代における国際貢献のあるべき姿が浮かび上がってくると確信している。 吉澤靖博 薬樹ウィル株式会社 代表取締役 1989年 薬樹株式会社入社。2010年、同グループ内においてNPO法人liko-net設立に参画、環境先進地域・岩手県葛巻町との協働や、ソーシャルイノベーションセミナー・青山ソーシャル映画祭などの企画を通じて社会課題啓発活動を展開している。2011年には、学術団体地域デザイン学会設立にも参画し、同学会の理事も務める。著書には『地域ブランドのコンテクストデザイン(共著)』、『海と島のブランディング(共著)』など。 提携企業:オルタナ http://www.alterna.co.jp/20775 2017年3月31日掲載下町の農と食で地域をつなぐ