オルタナSでは日本財団CANPANプロジェクトと組み、昨年9月からNPO大学を開いてきた。NPO大学では、受講生がNPOへの取材を通して、社会問題の発信方法について考えた。人の心に響き、「社会を変える記事」を追求した。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

NPO大学は昨年9月から始まり、毎月、若手NPOの代表らをゲストに招き、公開取材を行ってきた。

受講生たちはミレニアル世代といわれる大学生が中心。ゲストの話をレポートのようにまとめるのではなく、彼/彼女の視点から「面白い」と思った切り口で自由に書いてもらった。

ゲストは、各分野を代表するホープに依頼した。

第一回はLGBTの支援を行うReBitの薬師実芳代表理事、続いて、若者の政治参画を促すYouthCreateの原田謙介代表理事、児童養護施設で学習支援を行う3keysの森山誉恵代表理事、エシカルファッションを啓発するエシカル協会の末吉里花代表理事、動物愛護活動を行うアニマルライツセンターの岡田千尋代表理事、そして、岩手県陸前高田市広田町で活動するSETの三井俊介代表理事の6人に登壇していただいた。

受講生は全国から20人弱集まった。大学生にしてNPOを立ち上げたり、インターンしていたりと、社会問題に対して何かしら動いている人が多かった。

■シェアの背景には「怒り」

2月14日、日本財団でNPO大学の報告会を開いた。この日が最終回であり、「読まれる記事」についてワークショップを行った。

これまでの講義では、見出しや序破急といわれるリード文の書き方について学び、「丁寧に書く」ことを受講生には求めてきた。この日、そこからもうワンステップ上げて、「切り口」について話し合った。

ワークショップは2セッション行った。1セッションのお題は、「(自分が)読む記事と読まない記事」について。それぞれ特徴や傾向を出してもらった。このお題で議論している記事は前提として、社会問題に関する内容のものに限定した。

読む記事として出てきた要素は、「専門用語や難しい言葉を使っていない」「説教くさくない」「写真の質」など。実際、受講生たちが書いた記事で最も読まれたのは、「見出しを読めば記事の内容が明確に分かる」ものだった。

例えば、若者の政治参画で話した原田さんの記事で最も読まれた記事の見出しは、「『選挙からスタートしないで』若者と政治を結ぶNPO代表」(向井里花さん・福岡教育大学4年)だった。一般的には、選挙で政治とつなげようとするが、それを「違う」と言い切る原田さんの言葉をキーフレーズとした。

エシカルファッションについて話した末吉さんの記事でもそうだ。2番目に読まれた記事の見出しは、「1年間に10キロの服を買い、9キロを捨てている日本人」(五十嵐有沙さん・明治学院大学2年)。数字を用いることで、具体的に想像でき、読者にインパクトを与えた。

一方、読まない記事は、「イベントやりました・〇賞を取りました」というもので、知り合いだったらまだしも、自分にとってメリットを感じられづらいという理由だった。

■取材者と向き合い悩む大学生

第2セッションでは、「読まれる記事の3つの条件」について話し合ってもらった。1セッション目であげた要素から各グループで3つに絞ってもらった。

受講生たちの発表を聞いて、私が印象に残ったのは、「メッセージ性」。社会問題をジャーナリズムで記事を書く場合、ファクトを伝えるので、書き手には中立性が求められる。しかし、中立すぎても、メッセージ性がないと伝わってこないと言う。

政府に対する「怒り」だったり、NPOへの「応援」だったり、犠牲になる動物への「不都合」だったり、書き手の伝えたい思いを受け取ったときに、読んだあと心に響き、実際の「アクション」につながるはずだ。

社会問題は、若者に人気なスポーツニュースやエンタメ、時事情報と違って、時流がないときには読まれづらい。だからこそ、書き手には切り口を考えるセンスとメッセージ性が求められる。

だが、切り口もメッセージ性もただ多くの人に読まれるためだけに考えてしまうと、社会を変える記事にはならない。社会問題を発信する書き手には、取材者と向き合うことが必要なのだ。

このことについて話したのは、大学卒業後に記者として就職する細川高頌さん(横浜国立大学4年)。細川さんは、この日の前に、福島小高区を訪れていた。小高区は昨年7月に避難指示が解除されたが、人口は1,132人。震災当時には、12,842人いたが、帰還率は低い。

多くのメディアでは、「人のいない小高」として紹介されるが、住民に話を聞くと、その話題は「辟易している」という。細川さんはルポとしてどのような切り口で書くべきなのか、悩んでいると明かした。

震災から6年が過ぎてもまだ状況は悲惨だと伝えて、ショッキングなシーンを流すことも間違いではないが、それがジャーナリズムの果たす役割なのだろうか。(細川さんが悩みながら書いた記事はこちら

社会を変える記事は、「多くの人に読まれたい」という思いからではなく、「読んだ人を動かしたい」という使命感から生まれてくるのだと、彼/彼女らの話を聞きながら確信した。

提携企業:オルタナ http://alternas.jp/study/news/68357

2017年2月17日掲載

https://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/2172.jpghttps://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2017/05/2172-150x150.jpghatarakubaオルタナ提携記事若者VioceオルタナSでは日本財団CANPANプロジェクトと組み、昨年9月からNPO大学を開いてきた。NPO大学では、受講生がNPOへの取材を通して、社会問題の発信方法について考えた。人の心に響き、「社会を変える記事」を追求した。(オルタナS副編集長=池田 真隆) NPO大学は昨年9月から始まり、毎月、若手NPOの代表らをゲストに招き、公開取材を行ってきた。 受講生たちはミレニアル世代といわれる大学生が中心。ゲストの話をレポートのようにまとめるのではなく、彼/彼女の視点から「面白い」と思った切り口で自由に書いてもらった。 ゲストは、各分野を代表するホープに依頼した。 第一回はLGBTの支援を行うReBitの薬師実芳代表理事、続いて、若者の政治参画を促すYouthCreateの原田謙介代表理事、児童養護施設で学習支援を行う3keysの森山誉恵代表理事、エシカルファッションを啓発するエシカル協会の末吉里花代表理事、動物愛護活動を行うアニマルライツセンターの岡田千尋代表理事、そして、岩手県陸前高田市広田町で活動するSETの三井俊介代表理事の6人に登壇していただいた。 受講生は全国から20人弱集まった。大学生にしてNPOを立ち上げたり、インターンしていたりと、社会問題に対して何かしら動いている人が多かった。 ■シェアの背景には「怒り」 2月14日、日本財団でNPO大学の報告会を開いた。この日が最終回であり、「読まれる記事」についてワークショップを行った。 これまでの講義では、見出しや序破急といわれるリード文の書き方について学び、「丁寧に書く」ことを受講生には求めてきた。この日、そこからもうワンステップ上げて、「切り口」について話し合った。 ワークショップは2セッション行った。1セッションのお題は、「(自分が)読む記事と読まない記事」について。それぞれ特徴や傾向を出してもらった。このお題で議論している記事は前提として、社会問題に関する内容のものに限定した。 読む記事として出てきた要素は、「専門用語や難しい言葉を使っていない」「説教くさくない」「写真の質」など。実際、受講生たちが書いた記事で最も読まれたのは、「見出しを読めば記事の内容が明確に分かる」ものだった。 例えば、若者の政治参画で話した原田さんの記事で最も読まれた記事の見出しは、「『選挙からスタートしないで』若者と政治を結ぶNPO代表」(向井里花さん・福岡教育大学4年)だった。一般的には、選挙で政治とつなげようとするが、それを「違う」と言い切る原田さんの言葉をキーフレーズとした。 エシカルファッションについて話した末吉さんの記事でもそうだ。2番目に読まれた記事の見出しは、「1年間に10キロの服を買い、9キロを捨てている日本人」(五十嵐有沙さん・明治学院大学2年)。数字を用いることで、具体的に想像でき、読者にインパクトを与えた。 一方、読まない記事は、「イベントやりました・〇賞を取りました」というもので、知り合いだったらまだしも、自分にとってメリットを感じられづらいという理由だった。 ■取材者と向き合い悩む大学生 第2セッションでは、「読まれる記事の3つの条件」について話し合ってもらった。1セッション目であげた要素から各グループで3つに絞ってもらった。 受講生たちの発表を聞いて、私が印象に残ったのは、「メッセージ性」。社会問題をジャーナリズムで記事を書く場合、ファクトを伝えるので、書き手には中立性が求められる。しかし、中立すぎても、メッセージ性がないと伝わってこないと言う。 政府に対する「怒り」だったり、NPOへの「応援」だったり、犠牲になる動物への「不都合」だったり、書き手の伝えたい思いを受け取ったときに、読んだあと心に響き、実際の「アクション」につながるはずだ。 社会問題は、若者に人気なスポーツニュースやエンタメ、時事情報と違って、時流がないときには読まれづらい。だからこそ、書き手には切り口を考えるセンスとメッセージ性が求められる。 だが、切り口もメッセージ性もただ多くの人に読まれるためだけに考えてしまうと、社会を変える記事にはならない。社会問題を発信する書き手には、取材者と向き合うことが必要なのだ。 このことについて話したのは、大学卒業後に記者として就職する細川高頌さん(横浜国立大学4年)。細川さんは、この日の前に、福島小高区を訪れていた。小高区は昨年7月に避難指示が解除されたが、人口は1,132人。震災当時には、12,842人いたが、帰還率は低い。 多くのメディアでは、「人のいない小高」として紹介されるが、住民に話を聞くと、その話題は「辟易している」という。細川さんはルポとしてどのような切り口で書くべきなのか、悩んでいると明かした。 震災から6年が過ぎてもまだ状況は悲惨だと伝えて、ショッキングなシーンを流すことも間違いではないが、それがジャーナリズムの果たす役割なのだろうか。(細川さんが悩みながら書いた記事はこちら) 社会を変える記事は、「多くの人に読まれたい」という思いからではなく、「読んだ人を動かしたい」という使命感から生まれてくるのだと、彼/彼女らの話を聞きながら確信した。 提携企業:オルタナ http://alternas.jp/study/news/68357 2017年2月17日掲載下町の農と食で地域をつなぐ