AIについて考える
〇AIと人間の違いはどこにあるのか
囲碁のAIが世界のトップ棋士と対戦してAIが圧倒的な勝利を収めたニュースは、私たちに衝撃を与えました。今後AIはどんどん進化して、
「考える力」というのは、人間であることのいわば一つの証しです。AIがその考える力で人間を上回ったのですから、「AIがどんどん進化して、やがて人間を支配するようになるのではないか」という見方が出てくるのは当然かもしれません。
しかし、ここで考えなければいけないのは、果たして「考える力」だけが本当に「人間の証し」であるのか、ということです。
心の働きをよく、「知・情・意」と言います。人間の心は「知」という考える力だけではなく、感情や意志を併せ持っています。では、今後AIが進化していって、「知」だけではなく感情や意志を持ったAIが生まれるかと言えば、それは不可能ではないでしょうか。
生命科学者であった故野澤重雄博士は、一つの樹に1万個以上の実をつける『ハイポニカ・トマト』の実証研究を通して、生命には、「エントロピー増大の法則」という『物質法則』を超えて、エントロピーを減少させる力である『生命法則』が働いていることを明らかにしました。
この野澤博士の‘ハイポニカ理論’に則して言えば、人間は生命であり、『生命法則』に従って働いているのが人間の心であるのに対して、AIはあくまでも物質であり、『物質法則』に従って動いているのがAIであると考えることができます。AIはいわば「考える機械」にすぎず、人間のような生命にはなれないということです。
AIと人間のこの決定的な違いを認識することが、AIについて考える場合に最も大事ではないかと思います。
〇科学技術の発展と人間の幸せ
自動車は人間の「走る力」を拡大しました。そして、ついには超音速で飛ぶロケットまで人間は作り出しました。人間の「考える力」に追いついたAIもまた、人間を急速に追い抜いて、はるかかなたまで進化していくものと思われます。
でも、それはあくまでも、人間の生命の力の一部である「考える」力を拡大させただけのものに過ぎず、「考える機械」であるAIを人間の幸せのためにどのように利用するかは、人間の手にかかっています。
AIの本質をそのように捉えるならば、決してAIは人間の存在を脅かすようなものではないと言えます。
では、AIを今後どのように活用していったらいいのでしょうか。
現在、様々な産業でAIを活用しようとする動きが広がっています。主に仕事の生産性を上げるためにAIを利用するという方向に進んでいるようです。
AIは科学技術の発展の延長線上に現れてきたものです。人間が科学技術を発展させてきた背景には、「生産性を改善させて経済成長のスピードを上げる」、という目的があったことを考えれば、AIがそのために利用されるのは当然かもしれません。
しかし、ここでよく考えなければいけないのは、「科学技術が発展するほど私たちは幸せになっていくのか?」、ということです。言い換えれば、「科学技術の発展で経済が成長してモノが豊かで生活が便利な社会になれば、私たちの幸福感もどんどん高まっていくのか」、ということです。
おそらく、「そうではない」と感じている人が多いのではないでしょうか。
確かに、物質的、経済的に恵まれた生活を送ることは人間に幸福感をもたらします。しかし、物質的にある程度満たされれば、そこから先は‘物質的な豊かさ’と‘人間の幸せ’は単純に比例しなくなるのではないでしょうか。
つまり、物質的に豊かになることで私たちが幸せを感じる時代はもう終わったのではないかと思います。
もしAIが、単に生産性を上げて経済成長を加速させるためだけに活用されるのであれば、AIがどんなに進化しても、それが私たちの幸せにつながることにはならないでしょう。
「AIは人類にパラダイム転換をもたらす」、とも言われていますが、そのように考えると、私たちはAIの未来にあまり過大な期待を抱くべきではないかもしれません。
〇AIは「仕事の目的は何か」を問いかけている
一方で、AIは私たちに、「一体何のために私たちは仕事をするのか」、ということを問いかけているように思います。
AIの進化で、AIが小説を書いたり、ロボットに接客の仕事をさせることまでできるようになりました。
しかし、もし本当に小説を書くことや接客業をAIにまかせてしまうのであれば、それは小説家から創作活動の喜びを奪い、接客を通して人に尽くす喜びを人間から奪うことになります。
創作活動や接客を通して人間の生命力を発揮することが人間の本当の喜びや幸せにつながっているのではないかと私は思います。
仕事を通して自分の力、能力を存分に発揮し、人の役に立ったと感じた時に、私たちは本当の喜びや幸せを感じることができるのではないでしょうか。それこそが仕事の目的であり、その目的のためにAIをどのように活用したらいいか、と考えることが大事ではないかと思います。
仕事の目的について考えることなく、AIをどう活用するかということだけに走ってしまうと、結局気がついて見たら人間がAIに使われていた、ということになりかねません。
AIがこれからますます進化していく時代を迎えて、今私たちに求められているのは、「仕事の目的は一体何か」をあらためて立ち止まって考えてみることではないか。私はそのことを強く感じています。
<執筆者>
歴史や生物学など、さまざまな観点からこれからの新しい経済を予測するエコノミスト
野田聖二先生
https://hatarakuba.com/%e9%80%b2%e5%8c%96%e3%81%99%e3%82%8b%e7%b5%84%e7%b9%94/nd001/進化する組織〇AIと人間の違いはどこにあるのか 囲碁のAIが世界のトップ棋士と対戦してAIが圧倒的な勝利を収めたニュースは、私たちに衝撃を与えました。今後AIはどんどん進化して、 「考える力」というのは、人間であることのいわば一つの証しです。AIがその考える力で人間を上回ったのですから、「AIがどんどん進化して、やがて人間を支配するようになるのではないか」という見方が出てくるのは当然かもしれません。 しかし、ここで考えなければいけないのは、果たして「考える力」だけが本当に「人間の証し」であるのか、ということです。 心の働きをよく、「知・情・意」と言います。人間の心は「知」という考える力だけではなく、感情や意志を併せ持っています。では、今後AIが進化していって、「知」だけではなく感情や意志を持ったAIが生まれるかと言えば、それは不可能ではないでしょうか。 生命科学者であった故野澤重雄博士は、一つの樹に1万個以上の実をつける『ハイポニカ・トマト』の実証研究を通して、生命には、「エントロピー増大の法則」という『物質法則』を超えて、エントロピーを減少させる力である『生命法則』が働いていることを明らかにしました。 この野澤博士の‘ハイポニカ理論’に則して言えば、人間は生命であり、『生命法則』に従って働いているのが人間の心であるのに対して、AIはあくまでも物質であり、『物質法則』に従って動いているのがAIであると考えることができます。AIはいわば「考える機械」にすぎず、人間のような生命にはなれないということです。 AIと人間のこの決定的な違いを認識することが、AIについて考える場合に最も大事ではないかと思います。 〇科学技術の発展と人間の幸せ 自動車は人間の「走る力」を拡大しました。そして、ついには超音速で飛ぶロケットまで人間は作り出しました。人間の「考える力」に追いついたAIもまた、人間を急速に追い抜いて、はるかかなたまで進化していくものと思われます。 でも、それはあくまでも、人間の生命の力の一部である「考える」力を拡大させただけのものに過ぎず、「考える機械」であるAIを人間の幸せのためにどのように利用するかは、人間の手にかかっています。 AIの本質をそのように捉えるならば、決してAIは人間の存在を脅かすようなものではないと言えます。 では、AIを今後どのように活用していったらいいのでしょうか。 現在、様々な産業でAIを活用しようとする動きが広がっています。主に仕事の生産性を上げるためにAIを利用するという方向に進んでいるようです。 AIは科学技術の発展の延長線上に現れてきたものです。人間が科学技術を発展させてきた背景には、「生産性を改善させて経済成長のスピードを上げる」、という目的があったことを考えれば、AIがそのために利用されるのは当然かもしれません。 しかし、ここでよく考えなければいけないのは、「科学技術が発展するほど私たちは幸せになっていくのか?」、ということです。言い換えれば、「科学技術の発展で経済が成長してモノが豊かで生活が便利な社会になれば、私たちの幸福感もどんどん高まっていくのか」、ということです。 おそらく、「そうではない」と感じている人が多いのではないでしょうか。 確かに、物質的、経済的に恵まれた生活を送ることは人間に幸福感をもたらします。しかし、物質的にある程度満たされれば、そこから先は‘物質的な豊かさ’と‘人間の幸せ’は単純に比例しなくなるのではないでしょうか。 つまり、物質的に豊かになることで私たちが幸せを感じる時代はもう終わったのではないかと思います。 もしAIが、単に生産性を上げて経済成長を加速させるためだけに活用されるのであれば、AIがどんなに進化しても、それが私たちの幸せにつながることにはならないでしょう。 「AIは人類にパラダイム転換をもたらす」、とも言われていますが、そのように考えると、私たちはAIの未来にあまり過大な期待を抱くべきではないかもしれません。 〇AIは「仕事の目的は何か」を問いかけている 一方で、AIは私たちに、「一体何のために私たちは仕事をするのか」、ということを問いかけているように思います。 AIの進化で、AIが小説を書いたり、ロボットに接客の仕事をさせることまでできるようになりました。 しかし、もし本当に小説を書くことや接客業をAIにまかせてしまうのであれば、それは小説家から創作活動の喜びを奪い、接客を通して人に尽くす喜びを人間から奪うことになります。 創作活動や接客を通して人間の生命力を発揮することが人間の本当の喜びや幸せにつながっているのではないかと私は思います。 仕事を通して自分の力、能力を存分に発揮し、人の役に立ったと感じた時に、私たちは本当の喜びや幸せを感じることができるのではないでしょうか。それこそが仕事の目的であり、その目的のためにAIをどのように活用したらいいか、と考えることが大事ではないかと思います。 仕事の目的について考えることなく、AIをどう活用するかということだけに走ってしまうと、結局気がついて見たら人間がAIに使われていた、ということになりかねません。 AIがこれからますます進化していく時代を迎えて、今私たちに求められているのは、「仕事の目的は一体何か」をあらためて立ち止まって考えてみることではないか。私はそのことを強く感じています。 <執筆者> 歴史や生物学など、さまざまな観点からこれからの新しい経済を予測するエコノミスト 野田聖二先生hatarakuba info@jinji-roumu.comAdministrator903シティファーム推進協議会
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