年輪経営という言葉を聞いたことがあるだろうか。   木が毎年、毎年、年輪を重ねていき着実に幹を太くして成長していくように企業も急激な成長を追わず、年輪を重ねていくような成長を志す経営スタイルのことを「年輪経営」という。   短期的な利益を追い求め過ぎて数字至上主義に陥ることに警鐘を鳴らし、企業は遠きをはかり、社員の幸せ、関わる人の幸せを思い経営に取り組むことが大切だと説くのが、年輪経営の提唱者 伊那食品工業の塚越会長だ。

寒天メーカーという斜陽産業の中で、48年間増収増益を成し遂げてきたが、決して売上や利益の拡大に走ってきたわけではなく「社員が幸せになる」会社づくりを行ってきた伊那食品工業。

長野県伊那市にある同社には、その年輪経営の真髄を求め、今では多くの大企業の幹部が教えを請いに訪れている。
先日の週刊東洋経済(4月9日)でもトヨタの章男社長が教えを請う年輪経営の師匠として塚越会長の記事が掲載されていた様に、いい経営、いい会社づくりに関心がある人たちの間で、伊那食品工業の掲げる年輪経営は話題の概念になっている。 そんな注目の伊那食品工業にご縁をいただき、訪問をさせて頂いている中で教えて頂いたことや気づきをここに数回にわたって書いていきたい。利益の追求だけでなく、関わる人のやりがいや誇り、幸せを目指し、より良い経営を目指している経営者や社員の方々の参考、一助になれば嬉しく思います。 また、「いい会社って、どんな会社なんだろう?」と悩み、考えていく学生たちの会社選びや、働くを考える参考になればと願っています。

「キレイごと」を大切にしながら成長する会社は存在する

僕が初めて伊那食品工業を訪問させて頂いたのは今から4年前。当時、僕は参加していた経営塾で「これからの企業像」についてテーマ研究をしていた。 「一体、いい会社とはどんな会社なのか?」「どの様な企業がこれからも繁栄発展していくのか?」といったことをチームで話し合い、考えていく中で、真っ先に訪問させて頂き、教えを請いたいと思ったのが伊那食品工業だった。 ただ儲けるだけを考えるのではなく、どうすれば世のため、人のために貢献できるのか。4年前の2012年、あの頃は前年に東日本大震災があり企業経営は利益の追求だけでなく、つながりや絆、社会貢献性がより強くクローズアップされ、問われていたように記憶している。   そういう時期だったからこそ、それ以前よりも社会性の高い経営やソーシャルビジネスに対する関心も共感も強かったと思う。当時、「やっぱり、自社の利益だけを考えている会社はダメだよねー」、「これからはもっと、ビジネスでも社会貢献性が必要だよねー」という声も聞くことが多くなっていたが、そうした社会性、道徳性の高い経営を目指すことに対して、”YES!”  ”それって大事なことだよね” と思っている人でさえ、実際にそれを体現するとなると、「どうすればいいの?どうすれば体現できるの?」と迷ったり、日々の経営判断を下す時に、ついつい短期的な成果を求め、「結果が出なきゃ いいこともできないでしょ」、「だから、まずは結果出すんだ!」モードで経営してしまったりすることが多かったように思う。。。

結局、関わる人が幸せである経営とか、利他の経営とかは考え方として賛成だけど、実際のところは「それは理想、キレイごとなんじゃないのー」、「現実においては、やっぱりまず数字なんだよなー」というのが腹の中の本音になっていることが多い気がする中で、「それじゃ、あかんのです!」と、明確に断言していると感じたのが伊那食品工業の塚越会長だったのです。 経営のあるべき姿とは、社員を幸せにするような会社を作り、それを通じて社会に貢献することであり、売上も利益もそれを実現するための手段に過ぎないのだ。そう語られる塚越会長に直接、「いい会社」について教えを請いたい。キレイごとを大切にしながら経営がしっかりと成り立つのは何故なのか?ぜひお会いしてお話を聞かせて頂きたい、そんな僕らの無理なお願いを快く受け入れてくださり、大変ありがたいことに塚越会長とお会いさせて頂けることになった。

利益はウンチでしかない。ウンチを求めて経営をするのか?

塚越会長にお会いさせて頂き、お話を伺った中でまず最も強く印象に残っていることと言えば、やはり「利益はウンチでしかない。」というお話だ。

みんな経営者は、利益、利益って言うけれど利益なんてウンチだよ。ウンチを求めて経営するのなんておかしくないですか?健康な身体なら、毎日自然とウンチが出るように「健康な会社」なら自然と利益というウンチが出るはずです。ウンチを出すことを目的に生きている人なんていますか?
というお話は強烈だった。強烈であると同時に、健康な身体に例えて考えると大変イメージしやすく分かりやすい。ウンチは健康をはかる一つのバロメーターではあるけれど、確かにウンチを求めて日々、生活しているわけではない。求めているのは健康な身体であって、その為の健康な生活である。会社に置き換えれば、求めているのは健康な会社であって、その為の健康な会社づくりであると言える。 では、健康な会社とは一体いかなる会社であり、どのようにして健康な会社づくりを日々、行っていけばいいのか?それに関しても塚越会長は明確な指針をお話してくださった。
健康な身体が、太り過ぎでも痩せすぎでもなく、バランスのとれた筋肉質の身体であるように、健康な会社というのもバランスのとれた会社であると。
自分の身体にあった適正な皮下脂肪や内臓脂肪(会社でいうと内部留保)の値や、どこか一箇所の筋肉(部門)だけが発達するのではなく、腕や足、身体全体の筋肉がバランスよく発達していくこと、血液がサラサラで、血流(情報伝達、意思疎通)が良いことなどを意識して、健康な会社づくりを進める。
そうして会社の健康の度合いが増していけば、必ずその結果としてウンチ(利益)は自然と出るから利益、利益という前に、自社の健康を意識して、健康づくりに励みなさい。会社が健康になればなるほど、社員は幸せであれる。社員が幸せであればあるほど、会社はどんどん元気になっていく。会社は利益のために存在しているのではなく、社員の幸せ、関わる人の幸せのために存在していることを忘れないように。そう話してくださった塚越会長。

社員の幸せ?関わる人の幸せ?それって、本当にビジネスの世界で成り立つの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、次回のコラムでは塚越会長が考える健康な会社づくり(いい会社づくり)のポイントについて触れながら、社員が幸せな会社がなぜ好業績につながりやすいのかも考えてみたいと思います。

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引用元:伊那食品工業から「いい会社」を考える~いい会社は「遠きをはかる」~

本記事は、はぐくむで生まれた物語”Work Design News”(株式会社はぐくむ)より転載しております。

https://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2019/11/185843_184555905009845_437843707_n1.jpghttps://hatarakuba.com/wp-content/uploads/2019/11/185843_184555905009845_437843707_n1-150x150.jpghatarakuba経営と自然の調和ウンチ,キレイごと,健康,利益,年輪経営,食品年輪経営という言葉を聞いたことがあるだろうか。   木が毎年、毎年、年輪を重ねていき着実に幹を太くして成長していくように企業も急激な成長を追わず、年輪を重ねていくような成長を志す経営スタイルのことを「年輪経営」という。   短期的な利益を追い求め過ぎて数字至上主義に陥ることに警鐘を鳴らし、企業は遠きをはかり、社員の幸せ、関わる人の幸せを思い経営に取り組むことが大切だと説くのが、年輪経営の提唱者 伊那食品工業の塚越会長だ。 寒天メーカーという斜陽産業の中で、48年間増収増益を成し遂げてきたが、決して売上や利益の拡大に走ってきたわけではなく「社員が幸せになる」会社づくりを行ってきた伊那食品工業。 長野県伊那市にある同社には、その年輪経営の真髄を求め、今では多くの大企業の幹部が教えを請いに訪れている。 先日の週刊東洋経済(4月9日)でもトヨタの章男社長が教えを請う年輪経営の師匠として塚越会長の記事が掲載されていた様に、いい経営、いい会社づくりに関心がある人たちの間で、伊那食品工業の掲げる年輪経営は話題の概念になっている。 そんな注目の伊那食品工業にご縁をいただき、訪問をさせて頂いている中で教えて頂いたことや気づきをここに数回にわたって書いていきたい。利益の追求だけでなく、関わる人のやりがいや誇り、幸せを目指し、より良い経営を目指している経営者や社員の方々の参考、一助になれば嬉しく思います。 また、「いい会社って、どんな会社なんだろう?」と悩み、考えていく学生たちの会社選びや、働くを考える参考になればと願っています。 「キレイごと」を大切にしながら成長する会社は存在する 僕が初めて伊那食品工業を訪問させて頂いたのは今から4年前。当時、僕は参加していた経営塾で「これからの企業像」についてテーマ研究をしていた。 「一体、いい会社とはどんな会社なのか?」「どの様な企業がこれからも繁栄発展していくのか?」といったことをチームで話し合い、考えていく中で、真っ先に訪問させて頂き、教えを請いたいと思ったのが伊那食品工業だった。 ただ儲けるだけを考えるのではなく、どうすれば世のため、人のために貢献できるのか。4年前の2012年、あの頃は前年に東日本大震災があり企業経営は利益の追求だけでなく、つながりや絆、社会貢献性がより強くクローズアップされ、問われていたように記憶している。   そういう時期だったからこそ、それ以前よりも社会性の高い経営やソーシャルビジネスに対する関心も共感も強かったと思う。当時、「やっぱり、自社の利益だけを考えている会社はダメだよねー」、「これからはもっと、ビジネスでも社会貢献性が必要だよねー」という声も聞くことが多くなっていたが、そうした社会性、道徳性の高い経営を目指すことに対して、”YES!”  ”それって大事なことだよね” と思っている人でさえ、実際にそれを体現するとなると、「どうすればいいの?どうすれば体現できるの?」と迷ったり、日々の経営判断を下す時に、ついつい短期的な成果を求め、「結果が出なきゃ いいこともできないでしょ」、「だから、まずは結果出すんだ!」モードで経営してしまったりすることが多かったように思う。。。 結局、関わる人が幸せである経営とか、利他の経営とかは考え方として賛成だけど、実際のところは「それは理想、キレイごとなんじゃないのー」、「現実においては、やっぱりまず数字なんだよなー」というのが腹の中の本音になっていることが多い気がする中で、「それじゃ、あかんのです!」と、明確に断言していると感じたのが伊那食品工業の塚越会長だったのです。 経営のあるべき姿とは、社員を幸せにするような会社を作り、それを通じて社会に貢献することであり、売上も利益もそれを実現するための手段に過ぎないのだ。そう語られる塚越会長に直接、「いい会社」について教えを請いたい。キレイごとを大切にしながら経営がしっかりと成り立つのは何故なのか?ぜひお会いしてお話を聞かせて頂きたい、そんな僕らの無理なお願いを快く受け入れてくださり、大変ありがたいことに塚越会長とお会いさせて頂けることになった。 利益はウンチでしかない。ウンチを求めて経営をするのか? 塚越会長にお会いさせて頂き、お話を伺った中でまず最も強く印象に残っていることと言えば、やはり「利益はウンチでしかない。」というお話だ。 みんな経営者は、利益、利益って言うけれど利益なんてウンチだよ。ウンチを求めて経営するのなんておかしくないですか?健康な身体なら、毎日自然とウンチが出るように「健康な会社」なら自然と利益というウンチが出るはずです。ウンチを出すことを目的に生きている人なんていますか? というお話は強烈だった。強烈であると同時に、健康な身体に例えて考えると大変イメージしやすく分かりやすい。ウンチは健康をはかる一つのバロメーターではあるけれど、確かにウンチを求めて日々、生活しているわけではない。求めているのは健康な身体であって、その為の健康な生活である。会社に置き換えれば、求めているのは健康な会社であって、その為の健康な会社づくりであると言える。 では、健康な会社とは一体いかなる会社であり、どのようにして健康な会社づくりを日々、行っていけばいいのか?それに関しても塚越会長は明確な指針をお話してくださった。 健康な身体が、太り過ぎでも痩せすぎでもなく、バランスのとれた筋肉質の身体であるように、健康な会社というのもバランスのとれた会社であると。 自分の身体にあった適正な皮下脂肪や内臓脂肪(会社でいうと内部留保)の値や、どこか一箇所の筋肉(部門)だけが発達するのではなく、腕や足、身体全体の筋肉がバランスよく発達していくこと、血液がサラサラで、血流(情報伝達、意思疎通)が良いことなどを意識して、健康な会社づくりを進める。 そうして会社の健康の度合いが増していけば、必ずその結果としてウンチ(利益)は自然と出るから利益、利益という前に、自社の健康を意識して、健康づくりに励みなさい。会社が健康になればなるほど、社員は幸せであれる。社員が幸せであればあるほど、会社はどんどん元気になっていく。会社は利益のために存在しているのではなく、社員の幸せ、関わる人の幸せのために存在していることを忘れないように。そう話してくださった塚越会長。 社員の幸せ?関わる人の幸せ?それって、本当にビジネスの世界で成り立つの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、次回のコラムでは塚越会長が考える健康な会社づくり(いい会社づくり)のポイントについて触れながら、社員が幸せな会社がなぜ好業績につながりやすいのかも考えてみたいと思います。 ***************** 引用元:伊那食品工業から「いい会社」を考える~いい会社は「遠きをはかる」~ 本記事は、はぐくむで生まれた物語'Work Design News'(株式会社はぐくむ)より転載しております。下町の農と食で地域をつなぐ